もしあなたが配偶者との間に子供ができないとわかった時、見知らぬ女性に自分たちの子供を産んでもらいたいと願うだろうか。
現在、日本の夫婦の10組に1組は不妊症だといわれている。日本の不妊症市場は、年間1000億円。治療には2年~4年を要し、高額な場合の治療費は100万円以上になるという。むろん、それでも子供ができない夫婦は少なからずいる。
そんな夫婦の一部が望むのが、代理出産なのである。
代理出産は、グローバルビジネスの最たるものといえるかもしれない。その歴史は世界各国の法律や規制とのいたちごっこだった。
世界規模での代理出産マーケットの変容を、私は拙著『世界の産声に耳を澄ます』で詳しくルポしたが、ここではその概要を紹介したい。
他人の子宮を借りて子供を作る
まず、代理出産とは何かについて説明しよう。簡単にいえば、夫婦が自分たちの代わりに別の女性(代理母)に体外受精等で子供を妊娠してもらい、無事に生まれたら引き取って自分の子供にすることだ。
その方法には、次のパターンがある。
1、夫婦の卵子と精子を体外受精させて代理母の子宮に入れる方法。
2、夫の精子と卵子バンクの卵子を受精させて代理母の子宮に入れる方法。
3、妻の卵子と精子バンクの精子を受精させて代理母の子宮に入れる方法。
4、夫の精子を代理母の卵子に人工授精させる方法。
いずれにしても、夫婦の子供を別の女性が産むということだ。言い換えれば、他人の子宮を借りて子供をつくるのだ。
ただ、これには2つの問題がある。1つは倫理、もう1つが高額な費用だ。
多くの国で、夫婦が不妊だからといって別の女性にお金を払って自分たちの子供を産んでもらうというのは、社会的な倫理に反するとされる傾向にある。ゆえに、代理出産そのものが法律で禁止されていたり、厳しく規制されていたりすることが大半だ。日本もそれに当たる。
それでも一部の先進国では、代理出産が認められていることがある。代表的なのがアメリカだろう。ただ、費用が非常に高い。外国人がアメリカで行った場合、1回あたり2千万円以上が相場とされている。不妊夫婦はすでに長らく高額な不妊治療を受けているケースもあるため、これだけの金額を支払える夫婦はかならずしも多くない。
こうしたことから、夫婦の多くはアメリカより安い国で代理出産をすることを望む。法的な規制が緩く、物価の安い国。そう考えれば、自ずと発展途上国が選ばれる。
2000年代、代理出産の一大マーケットはインドだった。インドは英語が通じる上に、医者も欧米にした経験の持つ者が少なくない。外国人からすれば、便利、かつ安心して任せられる国なのだ。

しかも、インドは貧富の格差が大きい上に、人口は中国につづいて世界第2位。お金のために代理母になってもいいと考える女性もそれだけ多い。つまり、代理母を見つけるという点においても、安価に行えるという点においても適しているのだ。
このため、インドは長らく代理出産の一大市場となってきた。不妊夫婦ばかりでなく、LGBTのカップルが子供をつくるために訪れることも少なくなかった。