ザッカーバーグは、先の「グローバル・コミュニティ建設宣言」の中で、さしあたって目標とすべきグローバル・コミュニティの特性として5つのキーワードを挙げている。
すなわち、“supportive(互いに支え合う)”、“safe(危害が加えられない)”、“informed(情報が広く行き届いた)”、“civically-engaged(市民としてコミュニティに加わる)”、“inclusive(排斥される人のいない)”というものだ。
もちろん、これは官僚文書ではないので、5つのキーワードは相互に独立したものではなく部分的に被っている。だから、むしろ5つの言葉を全部重ねてイメージした方がよい。
ともあれ、こうしてザッカーバーグはFacebookのCEO、すなわち究極の当事者として、ベックが考えるような(国民国家的枠組みに必ずしも左右されない)方法論的コスモポリタニズムを実践する場としてFacebookを位置づけようとしている。その意味で「建設宣言」は十分、政治的なマニフェストであったのだ。
そして、そのグローバル・コミュニティの下で活躍する人材として期待されるのが、冒頭で紹介したスピーチでも名指されたミレニアル世代である。「ポーポス」に照準したのもそのためだ。
ザッカーバーグは、60年代の公民権運動などを参照しながら、すべての世代に、その世代の行動を枠付ける大きな社会的課題があると指摘する。
その上で、彼らミレニアル世代の課題として、(ベック的な意味で)インターネットを通じてコスモポリタニズムが浸透していく現在/近未来において、社会的にインパクトのある「意味のある巨大プロジェクト」を扱うことを訴える。
つまり、コスモポリタンな世界(=グローバル・コミュニティ)を具体的に築いていくための課題に取り組むということだ。
自ら動く
ただし欧州人のベックが、もっぱら気候変動のようなハイテクがもたらす広域リスクへの普通の人びとの「気づき」を通じて「コスモポリタニズム転回」が起こると考えているのに対し、ザッカーバーグは、個々人が目的を見つけそれに挑戦することで、ミレニアル世代としてのコスモポリタン的一体感が醸成できると考えている。
この「自ら動く」ところに力点を置くのは、アメリカ人らしい切り口といえるだろう。
実際、ハーバードのスピーチでも、「自ら動く」ことを見越して、幸福の源泉たる目的を誰もが持つことのできる社会を築くために、三つの方法を勧めている。
一つは、件の「意味のある巨大プロジェクト」について皆で語ることであり、二番目が、実際にそのような目的に誰もが取り組むことのできる「自由」を享受できるよう(先達たるアメリカ人が試みてきたように)「平等」の概念を拡張すること。
そして最後の三番目が「目的」を見出すきっかけを具体的に与えてくれる、身近な(物理的空間としての)ローカル・コミュニティを再興し、それを起点にして世界規模のコミュニティを生み出すことだ(面白いことにベックも都市ならびに都市連合に注目している)。
いずれも「自ら動く」ことで、小さな一歩から「まずは」踏み出すことを重視している。スピーチの聴衆である「あなた」が動くことを促すものなのである。
そのため、これらのゴールは「グローバル・コミュニティ建設宣言」の、いわばリアル社会版である。
特に二番目の目標など、本当に実現させようと思えば現実世界の政治に働きかけざるを得ない「政治課題」である。そんなところが、本人は強く否定するにもかかわらず、ザッカーバーグの政界入りが噂される所以である。