鈴木市長が就任した際に残されていた借金の総額は322億円。その2年後から利息に加え元金の償還が始まり、毎年26億円を14年間にわたって返済しなければならなくなった。一方、税収は年間8億円足らず。地方交付税の補填があるとは言え、市職員の給与カットや住民サービスの徹底的な切り下げを行わなければ返済不可能な金額だ。
鈴木市長は言う。
「家計にたとえれば、500万円の収入で、食費・光熱費などを出して、そのうえ260万円もの借金を返済する感覚です。住民サービスはすでに徹底的に切り下げており、これ以上削れる事業はありません。
財政再生計画は、夕張市の財政を建て直すことが最優先されており、夕張市民が負担に耐えられるかという観点が抜け落ちている。このままでは17年後(2027年)には財政再建できるかもしれないが、夕張市そのものが消滅してしまうかもしれないと思いました」
鈴木氏は、有識者による第三者委員会「夕張市の再生方策に関する検討委員会」を設置して、夕張再生の施策を検討してもらった。2016年、委員会が提出した報告書には緊縮一辺倒の市政に対する懸念が多数盛り込まれた。
「『最高の負担、最低のサービス』という表現が使われるところに人は来ない」
「『何を要望しても叶わない』という諦めムードが、住民生活に深い影を落としている」
「財政再生計画が終わった時点で、市職員、派遣職員ともいなくなり、組織が成り立たなくなっているのではという危機を感じる」
「夕張市は破綻から10年を経て、116億円の借金を返済してきた。しかし、夕張市全体が限界に来ていると感じた。何とかしなければ『2度目の破綻』ともいうべき事態になってしまうという切迫感を感じる」
委員会は、財政再建に配慮しつつも、住民からの要望の強い子育て支援サービスの充実、コンパクトシティ化を前提にした複合公共施設の整備、市職員の処遇改善などを織り込んだ見直し案を提言した。
市はこれを受け、緊縮一辺倒からの方針転換を国に訴えた。こうした熱意は国を動かし、2017年3月、財政再生計画の抜本的な見直しに国が同意。夕張市では、今残っている200億を超える借金は確実に返済していく一方で、町の再生のために必要な予算については実情に合わせて柔軟に使える環境が整った。
財政破綻から10年。止まっていた時計の針を動かすことができるのか。人口が3割減少し、市職員が大量退職した夕張市にとってはまだまだ険しい道が続いていく。
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