宗教学者が予見「やがてAI殺しの天才が現れる時代が来る」

「神探し」と「神殺し」の歴史の中で

葬儀をいっさい行わず、病院から遺体をそのまま火葬場に送る「直送」や、Amazonが選んだ僧侶が斎場にやってくる「お坊さん便」など、日本人と宗教の関係は希薄になるばかりだ。

いわば「神殺し」「仏殺し」を行ってきた日本人にとって、新たに人間を超越する存在として認識されはじめているのがAI(人工知能)である。

宗教学者・山折哲雄氏と作家・髙山文彦氏の対談集『日本人が忘れた日本人の本質』では、AIが新たな「神」として君臨した後の世界をどう見通しているのか。

常識を飛び越えた「アルファ碁」

高山 ロボット工学がものすごいスピードで展開していますね。日本のロボット工学は世界に冠たるものですよ、それとAI(人工知能/artificial intelligence)の開発技術。人工知能が、チェス・将棋・囲碁のプロを負かしちゃったでしょう。

山折 世界最強の棋士とされている韓国のイ・セドル九段と人工知能アルファ碁の2016年対決はAI側の4勝1敗に終わった。これまでの常識では、コンピュータはあらかじめ人間にプログラムされている以上のことを自分で考えることはできず、ただ計算速度が速いというだけだから、たとえば人間の直感力という論理を超えた能力には敵うはずがないと考えられてきた。

ところがこのアルファ碁は、3つの点でその常識を飛び越えてしまったというんだよね。坂村健さん(元東京大学教授)によれば、AIは、まず神経回路網という人間の脳を真似た働きをもっている。2つめに、AIは経験から学習する。

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これは人間と同じだね。3つめに、人工知能はいくらでもコピーが可能ということ。これは人間とは違うよ。不世出の天才はコピーできないものね。アルファ碁の勝因は、まずは人間が指した棋譜の膨大な情報をインプットして学ばせた後、人工知能にそのコピーと延々戦い続けさせる。するとプログラムが勝手に自己進化していくというんだ。

つまりロボット工学は人間を超える能力をロボットに植え付けようとしている。超人間的な存在を無限につくろうとしていると言ってもいい。

これを僕は神々なき近代において、新しい「神」をつくろうとしている現象ではないかと近ごろは思っているんです。神殺し、仏殺しをやった近代の人間が、やはり「神無し」では寂しいのか、またぞろ超人間的な「神探し」をやり始めている。

 

高山 そのうえ小説まで書いちゃった。人物や舞台設定をAIにやらせて小説を書こうという作家まであらわれましたが、そのうちAI文学賞なんてできるんじゃないでしょうか。外科手術もAIにやってもらったほうが、むしろ安全かもしれません。

山折 アメリカの研究者が試算したところによると、今、人間がやっている仕事の多くをロボットがこなせるようになって「1億人の雇用を奪う」ことになるらしいよ。そうなるとこんどは、この怪物みたいなAIを殺しにかかるようになるんではないかな。

せっかく「AI」という「神」をつくったのに、こんどは殺しにかかるときが来るんだね。「神探し」と「神殺し」を繰り返すというわけだ。人類は進歩しているようで結局のところぜんぜん進歩していないんだな。

しかし、これは文明論上の大問題だよ。人間にできて人工知能ロボットにはできないことを考えなくてはならないわけだから。それに失敗すると、こんどは「ロボット殺し」の時代がやってくる。これは近代人がすでに「神殺し」をやっているから、ノウハウをすでに知っている……。

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