頭取たちの前で鳴らされた警鐘
銀行業界には「参勤交代」がいまも残っている。
地域銀行(地方銀行と第二地方銀行)の頭取たちが月に一度、それぞれの協会での例会出席のために、全国各地から上京してくる。例会の行事の中には、金融庁幹部との意見交換会があり、四半期に一度は金融庁長官が登壇する。
7月12日(地銀)、翌13日(第二地銀)に行われた金融庁との意見交換会は、3期目に入った森信親長官の所信表明の場となった。さっそく、長官の講話を聞いた参加者からヒアリングし、筆者なりに銀行経営の根幹に関わるポイントをまとめてみた。
「金融検査マニュアルの弊害でもあるが、銀行の健全性は確保されたものの、リスクを取らなくなった。収益環境の悪化により、金融システムの脅威は、貸借対照表(B/S)の健全性から、損益計算書(P/L)の改善に変わった」
「(銀行は)低金利融資の拡大など、既存のビジネスモデルの延長線上から抜け出せていない。希望的観測を前提とした経営は間違っている。有価証券運用で過度なリスクを取り、本業の赤字を穴埋めしようとする金融機関を見逃すわけにはいかない。余力のあるうちに、持続可能性のある本業でのビジネスモデルを確立してほしい」
「中小企業3万社のアンケートによれば、経営上の課題や悩みの把握、サービス提供の効果について、顧客企業から高い評価を受けた地域銀行は、貸出金利の低下幅が小さい。持続的なビジネスモデルを確立するにはコストと時間がかかるが、本当に大事なのは言葉だけではなく実行に移すことだ」
これらが、森長官が3年目の続投にあたって、頭取たちに向けて鳴らした警鐘だ。いずれも過去2年間、森金融庁が発信し続けてきたことの延長線上にあり、まったくブレていない。
銀行経営に長く関わってきた視点から、この森談話の意図、真意を、さらに細かく探ってみたい。
外債投資の経験もないのに…
いま、地域銀行の外債等の債券投資(以下、「外債投資」)での損失が問題になっている。2017年3月末の決算で、多額の損失を計上した地域銀行は少なくない。それより問題なのは、投資債券が簿価の30%以上下落していないからという理由で、減損処理をせず、含み損という爆弾を抱えたままの地域銀行がかなり存在することだ。
地域銀行が外債投資を急拡大した理由の一つには、異次元の金融緩和によって日本の長期金利が低下し、国債運用に赤信号が点灯したことにある。実際、地域銀行が保有する国債残高は、金融緩和後に大きく減った。
もう一つの理由は、金融緩和がマイナス金利へと展開し、地域銀行のメインビジネスを直撃したためだ。
信用リスクの少ない優良事業者への融資は、銀行間の低金利競争の主戦場となってしまった。住宅ローンも金利低下で収益を見込めなくなった。賃貸アパートローンや消費者ローン、投信・保険などの商品は、金融庁が求めるフィデューシャリー・デューティー(=真に顧客本位の経営)への配慮から、のべつ幕なしに残高を伸ばせる状況にない。

このような本業での閉塞感から、地域銀行は外債投資を加速したわけだが、それがうまくいかないのは当然のことだ。地域銀行の経営陣には、外債投資の経験者がほとんどいないからだ。
現場にまかせきりで「よきに計らえ」、そのくせ「なんとか収益を上げろ」と結果だけ求める。打ち出の小槌ではあるまいし、現場もたまったものではないだろう。
外債など有価証券運用のリスク管理については、どの地域銀行でもさまざまな議論をしているはずだ。しかし、各行の経営陣はその意味合いをどこまで理解しているのだろう。実際のところ、リスク資本の多くを有価証券運用に費やしている地域銀行は、かなり存在するとみられる。