あまりに残念な地銀の実態〜金融庁「異例の警告」の真意に迫る

もうダメ経営陣が淘汰されるべきでは…
多胡 秀人 プロフィール

キレイごとに満ちた企業理念

共同通信記者の橋本卓典氏が『捨てられる銀行』『捨てられる銀行2 非産運用』(講談社現代新書)で詳述しているように、「顧客本位のビジネスモデル」「顧客と金融機関の共通価値の創造」は、いずれも金融庁が行政方針(2015年版、2016年版)を通じて言い続けてきたことだ。

遺憾ながら、顧客本位のビジネスモデルの浸透はいまだ道なかばである。属人的単発的な取り組みはどこの金融機関にもあるが、組織的継続的に行われるには至っていない。

 

組織的継続的な顧客本位BMがいつまでたっても始まらない理由は、やはり経営陣の姿勢にあると言うほかない。彼らからは、

「顧客本位のビジネスモデルと言うが、そんなものは理想に過ぎない。現実はそんなに甘くはない」

「顧客本位のビジネスモデルこそが重要だというのは理解できるが、実現には時間とコストがかかる。目先の収益を考えると踏み切れない」

との声が聞こえてくる。

前者はとんでもない思い違いだ。実際に、組織的継続的な顧客本位のビジネスモデルを採用し、成果を出している金融機関がある。「理想に過ぎない」と思うなら、「顧客本位」「地域とともに」といったキレイごとに満ちた企業理念の文言を、「地元が死屍累々になろうが自分たちだけは生き残る」とでも書き換えるべきだろう。

後者は、プロダクトアウト型(=作り売る側の理論を優先して商品やサービスを提供するやり方)で量を売ることをやめれば、いますぐにも収益が激減してしまう、という経営陣の恐怖心が生む誤解だ。すでに成果を上げている金融機関では、経営者が腹をくくって企業理念から逸脱したビジネスモデルの是正を決断しているのである。

いつかやらねばならないビジネスモデルの転換であれば、先送りせず、追い詰められる前に断を下すのが経営というものではないか。竦んで何もしないというのは、経営者として無責任きわまりない。

地域銀行に経営人材を派遣

いま地域金融業界に求められているのは、経営人材をいかに育成するか、だ。

たしかに、地域銀行はムラ社会(あるいはお友だちクラブ)の典型であり、出る杭は打たれ、異分子が阻害されがちで、横並びを脱する飛び抜けた人材をそのなかで育てるのは容易でない。

金融庁は外部人材の活用を訴えており、ムラ社会への人材派遣も考えているようだ。冒頭で触れた7月の地方銀行、第二地方銀行の例会では、森長官が頭取たちに向けて次のように言及している。

「地域経済活性化支援機構(REVIC)とその子会社である日本人材機構が行なっている、地域銀行に対する専門人材の派遣を充実させたいと考えています」

この発言からも、地域銀行への経営人材の派遣が現実味を帯びてきていることがわかる。メガバンクの人間、異業種の人間、地元の関係者……どんな人材がいいのかは、議論の分かれるところだろう。

大事なのは、どんな業界から人を選ぶかではなく、経営の本質を心底理解し、それをスピード感を持って実行できる人間かどうか、の一点に尽きる。

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