ロンドンを揺さぶるタクシーvsウーバー大戦争、その真の勝者は?

グローバリゼーションの落とし穴
笠原 敏彦 プロフィール

ウーバーがロンドンに進出したのは2012年のロンドン五輪直前。ブラックキャブより3割程安い運賃と、空き時間を使って自家用車で稼げるという手軽さにより、急速に拡大してきた。

ウーバーの登録運転者数は約4万人で、ブラックキャブの2万1000人のほぼ2倍近い。両者のコントラストは鮮明である。

移民中心のウーバーに対しブラックキャブは白人中心、カーナビなどIT技術を駆使するウーバーに対し、蓄えた地理的知識と客をつかまえる勘で営業するブラックキャブ、という具合だ。

それぞれの言い分

ルポは、白人で労働者層出身のブラックキャブ運転手、ポール・ウォルシュさん(53)と、モロッコ移民でイスラム教徒の女性、ザラ・バカリさん(38)の日常を丹念に追う内容で読ませる。

ポールさんは3年間、週6日スクーターでロンドン市内を走り回って1994年にようやくブラックキャブの免許を得た。この間、口頭試問の悪夢から通り名をつぶやきながら夜中に目を覚ますことが何度もあったという。

彼は苦々しく語る。

「俺は(免許取得に)3年もかかったんだ。なのに、ウーバーはその知識をアプリに変えてしまった」

一方、ザラさんはモロッコ系の男性と結婚するために電気もない村から18歳でロンドンに移住。その差別体験を振り返る。

ある日、妊婦の彼女が4人の子供を連れてバスに乗ると、黒人のバス運転手から罵倒された。

「この外国人野郎。お前らはこの国に来てただ子供を産み続けるだけなんだ」

 

ウーバーの運転手としても、ブラックキャブに異常接近されたり、道を譲ってもらえなかったり、罵られたりしているという。

ザラさんが連日のように運転して1週間で得る収入は300ポンド(約4万5000円)ほど。契約料や配車の在り方などでウーバーへの不信や苦労はあっても、自分で稼いだお金を自分で管理できることには喜びがあるという。

そんな両者がライバルを見る目は厳しい。

ザラさんにとって、ブラックキャブは「人種差別の代名詞」だ。一方、ポールさんにとってウーバーは「伝統文化の破壊者」だ。

グローバリゼーションで利益を得る者と、生活を脅かされていると感じる者。昨年6月に行われたEU離脱の是非を問う国民投票で、ザラさんは残留に投票し、ポールさんは離脱に投票した。

Uberに抗議し、イギリス国旗を振るブラックキャブの運転手〔PHOTO〕gettyimages

ポールさんは、EU域内を自由に移動できる労働移民への不満を口にする。

「ロンドンは歴史的に難民を歓迎してきた。しかし、難民と経済移民は別物だ。彼らは我々の生活水準を押し下げているんだ」

ポールさんは、「ウーバー以前」には1日20回の乗客があったが、「ウーバー以後」は5回ほどになり、「大抵の週は経費を補うだけだ」と話す。

そして冷笑的に続ける。

「(自動運転が普及すれば)ブラックキャブの運転手もウーバーの運転手も歴史になってしまうんだろうな」

取材したブラックキャブ運転手の大半が国民投票ではブレグジット支持に投票していたという。

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