ロンドンを揺さぶるタクシーvsウーバー大戦争、その真の勝者は?

グローバリゼーションの落とし穴
笠原 敏彦 プロフィール

消費者としてはいいかもしれないが…

このゲームの勝者は、IT技術によりグローバルなマーケット支配力を手にしたウーバーなのだろう。

7月15日付の毎日新聞で浜矩子・同志社大学教授はこう書いている。

「ライドシェア大手の米ウーバー・テクノロジーズは、自分たちは運転手さんたちの雇用主ではないという。タクシーに乗りたい人と、タクシーサービスを提供したい人を結びつける。そのためのITプラットフォームを提供しているだけである。それがウーバーの言い分だ」

スマホをタップするだけで割安のタクシーを迅速に呼べるのは、消費者としては有難い話だ。また、「誰もが自分の都合に合わせた時間で臨時収入を得ることができる」というウーバーの謳い文句は、稼ぎたい、働きたい者にとって魅力的だろう。

「消費者」と「働き手」の心理をIT技術で結びつける手法は、ビジネスモデルとしては称賛に値するものなのかもしれない。

しかし、一人ひとりが「消費者」の立場を離れて、「働き手」の立場に身を置いたとき、グローバリゼーションの「勝者」と「敗者」のバランスはいかなるものなのだろうか。

この点を考えるとき、現在のグローバリゼーションの在り方がより豊かで安定した社会を導き得るとはとても思えない。

グローバリゼーションの「魔力」とは、消費者にとっての魅力(自由競争・輸入による価格低下)を、マーケット支配力を持つ企業・組織がアピールすることで醸し出されているように見える。

そして、ウーバーのケースを見るまでもなく、国際的なマネーの流れが支配力を持つ企業などに集中することは火を見るより明らかである。

 

ブレグジットとトランプ現象はつながっている

少々話は逸れるが、こうした視点で見たとき気になるのは、自由貿易協定をめぐるメディアの報道ぶりだ。

最近で言うなら、7月6日のEUとの経済連携協定(EPA)での大枠合意のケースである。

日本のメディアはこぞって、「ワインやチーズが安くなる」と喜ぶ消費者サイドの話と、悲鳴を上げる生産者サイドには補助金など政府の支援策が必要という話、マクロ経済的に積極評価する専門家のコメントという、いつものパターンが繰り返されたように思う。

しかし、そのような数字的な損得、帳尻合わせで豊かと感じられる社会、安定した社会を本当に築けるのだろうか。政府から補助金などの支援を受けることで生業を続けることができたとしても、働き手としてのプライドは保てるのだろうか。立ち止まって考えるべきときが来ているように思う。

人々は自らの日々の生活さえもコントロールできない無力さを覚えるとき、アイデンティティに回帰して「強い国家」に頼ろうとするのだろう。

イギリス国民がEUから「主権」を取り戻すために下したブレグジットという選択と、アメリカ国民が「ワシントンから政治を取り戻す」と訴えたドナルド・トランプ氏を大統領に選んだ「トランプ現象」の根底には、同じメカニズムが働いているように思えてならない。

ふしぎなイギリス

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