この国では再び「軍事と学術」が急接近してしまうのか?

50年ぶりの「声明」を読み解く
杉山 滋郎 プロフィール

論文発表が差し止められたことも

しかし、「学問の自由」が安全保障の観点から制限されるべきこともある。たとえば「研究成果を自由に公開する」と、それが敵対国に軍事利用される可能性がある(あるいはテロリストに悪用される可能性がある)、といった場合である。

2011年に、インフルエンザウイルスに関する研究論文の発表が、米厚生省の勧告により差し止められる、という出来事があった。

発表予定の論文中に、H5N1インフルエンザウイルスを哺乳類どうしの間で感染できるよう改変するという内容を含む実験のことが、実験の手順も含めて記述されていた。ならずもの国家やテロリストなどに悪用されれば、壊滅的被害を起こしかねないと考えられたのである。

しかし論文の著者たちは反論した。悪用のリスクを低減させようと情報の一部を隠しても、まともな研究者が情報を得にくくなるだけで、悪用の意図がある者なら悪用できてしまうだろう。

むしろ広く公開することで、他分野からも含め多くの研究者をインフルエンザ研究に参入させ、迅速に研究を発展させたほうがよい。そうしてこそ、ヒトからヒトへと感染するような変異が自然界で起きて世界的大流行が発生する、といった事態を防ぐことができると主張した。

結局、論文は一部を改定することで両者が折り合い、翌年に公表された。

この例が示すように、研究の内容によっては「学問の自由」が安全保障と、強い緊張関係のもとに置かれることがある。悪用や軍事利用の意図と無縁の研究であっても、ある社会状況のもとでは悪用や軍事利用に結びつくことがありうるからである。

学術の研究成果は、まさに「デュアルユース」(用途が両義的、民生目的にも軍事目的にも利用可能)なのである。

 

大学に迫りくる「安全保障輸出管理」

日本の大学には、安全保障との間で緊張関係をもちつつも、大学を自由でオープンな研究の場として守りつづけるという仕組み――たとえば米国のような棲み分けの仕組み――が、十分に整っていない。

そうしたなかで、いま大学は「国際化」を急ピッチで進めている。

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