では、「世界でいちばん集団主義的」といわれてきた日本人の「同調率」は何%なのだろうか? 当然、アメリカ人の「同調率」より遥かに高いにちがいない。
ところが、日本人を被験者にして同じ方法でおこなった5つの実験をしらべてみると、「同調率」の平均は25%にすぎなかったのである。驚いたことに、アメリカ人と変わりがない。日本人は、特別に集団に迎合しやすいというわけではないのである。
日本人をアメリカ人と比較した研究は、こうした同調行動の実験をはじめとして、調査研究も含めると、全部で20件見つかった。それらの研究の結果をまとめると、グラフのようになる。

「常識」に反して、「日本人とアメリカ人のあいだには差がなかった」という研究がいちばん多くて14件。「常識」とは逆に、「アメリカ人のほうが集団主義」という研究が、なんと5件もあった。「常識」どおり、「日本人のほうが集団主義」という研究は、たったの1件しかなかった。
科学的な方法できちんと比較をしてみると、日本人は、「世界でいちばん個人主義的」という定評のあるアメリカ人と比べても、特に集団主義的というわけではないのである。
科学的な比較研究の結果がこう出ている以上、「日本人は集団主義」という「常識」は、間違いだったと考えざるをえない。
「日本人は集団主義」説の始まり
では、なぜ間違った「常識」ができあがってしまったのだろうか?
この「常識」の淵源をたどっていくと、パーシヴァル・ローウェルというアメリカ人に行きあたる。ボストンの資産家の息子で、「火星の表面に見える縞模様は、火星人が掘った運河だ」という説を唱え、有名になったアマチュア天文家である。
このローウェルが、明治時代の日本にやってきて、日本をテーマにした『極東の魂』という本を書いた。ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)はこの本を読んで感激し、それが日本に来るきっかけになったというから、かなり影響力の強い本だったのだろう。
この『極東の魂』のなかで、ローウェルは「日本人には個性がない」と繰りかえし主張しているのである。なぜローウェルはそう主張したのか?
ローウェルがこの本を書いたのは、日本に来て日本語を学びはじめてから、1年ほどにしかならない時期である。だから、日本人について、ずいぶん珍妙なことも書いている。「日本人には個性がない」という主張は、日本人についての正確な観察から出てきたわけではないのである。
この主張は、おそらく、ローウェルの「先入観」に根差している。