インターネットでがんの治療法を検索すると、免疫療法を提供するクリニックの広告が次から次へと表示される。そこには〈最先端〉〈理想的〉〈あきらめない〉といった美辞麗句が並んでいる。
がんの治療法としては、「三大療法」が一般的に知られている。「外科療法(手術療法)」「化学療法(薬物療法)」「放射線療法」の三つ。
この三大療法に並ぶ新しい「治療」として最近、注目を集めているのが免疫療法である。基本的に保険の利く三大療法で思わしい結果が得られない患者が、最後の望みとして免疫療法に流れるケースが多い。
「卵巣がん体験者の会スマイリー」代表として患者や家族の相談を受けてきた片木美穂氏が語る。
「保険が利く抗がん剤も自分に効果があるかどうかは使ってみないとわからない。多くの患者さんにとって、効くか効かないかわからないという意味では免疫療法も抗がん剤治療も同列なのです。
でも、本などで免疫療法が『効いた』実例を見せられると、『もしかしたら私も』とすがってしまう。一般的にかかる費用(200万~300万円)も『頑張れば、かき集められるかも』と思わせる金額なのです」
そもそも免疫とは細菌やウイルスといった異物から生物の身体を守るためのシステムのこと。がん細胞も異物の一つで、本来は免疫の働きで排除される。
だが、免疫が弱っていたり、がん細胞によって免疫の働きにブレーキがかかっていたりすると、排除しきれないことがある。免疫療法は免疫本来の力を回復することで、がんを退治することを目指すものだ。
だが、免疫療法と一口でいっても、その内容は多様で玉石混交である。
「玉」の代表例が「オプジーボ(一般名ニボルマブ)」。高額な薬剤費(発売当時の価格で年間約3500万円)で話題となった、免疫に働きかける抗がん剤だ。ただし、これは晴山さんが受けた免疫療法とはまったく別ものである。

国立がん研究センターの若尾文彦がん対策情報センター長が解説する。
「オプジーボは、『がん細胞が免疫の働きにブレーキをかける仕組み』に働きかける薬。この仕組みは非常に画期的なもので『免疫チェックポイント阻害剤』と呼ばれ、効果が科学的にも認められており、保険も適用されます。
一方、多くのクリニックが自由診療で提供している免疫療法は『細胞治療』です。これは免疫細胞を採取し、増強させ体内に戻す治療法。両者は仕組みがまったく違うのです」
科学的根拠はない
後者の免疫細胞療法にはがんペプチドワクチン、樹状細胞ワクチン、キメラ抗原受容体(CAR)、遺伝子導入T細胞輸注療法などがある。
だが、これらはすべて現時点で安全性や有効性が確認されていない。効果がはっきりしていない以上、保険診療としても認められておらず、一通りの治療を受けると200万~300万円、なかには1000万円以上も請求されるケースもある。
「本来なら科学的な根拠のある標準治療を受けるべき患者さんまで、自由診療の免疫療法に流れる場合があります。効果がはっきりしていないのに非常に高い料金設定。憂慮すべき社会問題だと思います」(若尾氏)