非常勤教職員約10万人に影響?
東京大学の非常勤教職員への対応には、就業規則の件以外にも多くの懸念が残る。組合側は、無期転換を認めない姿勢はそもそもの法律の趣旨に反していると主張したが、女性が8割を占める短期間有期雇用労働者を雇い止めしようとしている点は、女性に対する雇用差別、とも受け取れるという。
さらに注目すべきは、国立大学の雄である東京大学でこのような方針が決定・推進されれば、全国の国立大学の非常勤教職員の雇用問題にも影響が出てしまう可能性があることだ。
文部科学省は2016年度に、国立大学法人86法人を対象に「無期転換ルールへの対応状況に関する調査」を実施した。その結果、非常勤教職員を「原則無期転換する」と答えたのは秋田大学、浜松医科大学、愛知教育大学、三重大学、京都教育大学、奈良教育大学の6法人だけだった。
ほとんどの大学は「職種によって異なる対応を行う」ことを検討していると回答し、事実上態度を保留している。他大学は、東京大学の様子を見ているとさえ考えられる。
現在、86ある国立大学法人全体で、少なくとも10万人以上の非常勤教職員が働いている。東京大学の対応が正当化されると、多くの大学が追随し、数万単位の雇用に影響が及ぶ可能性があることを指摘しておきたい。
東京大学は本来、法改正の理念を汲みとり、最も模範を示すべき存在ではないだろうか。筆者は東京大学に「東大ルールにより非正規教職員を雇い止めすることは、改正労働契約法の趣旨に反しているとの指摘があるが、大学としての考えを聞きたい」と8月10日に取材を申し入れた。
この申し入れに対し、東京大学広報課は、非常勤教職員の多くを雇い止めして、新たな「職域限定雇用職員」を公募する方針は認めた。一方大学の見解については、「本部が長期の休みに入るので、8月21日以降に改めて連絡します」と答えるに留まった。
この問題は、少子化や大学改革などとも密接に関係しているはずだ。大学側も苦しい事情を抱えているのだろうことは推察できる。筆者は東京大学側への取材も含めて、今後もこの問題を追っていくつもりだ。