金井:このような意識についてアイデアは工学ではすでにあったのでしょうか。それともご自身で発案された仮説なのでしょうか。
リプソン教授:ここでの自己についてのシミュレーションという考え方が自己意識の定義として使われてきたかは定かではないです。メンタルタイムトラベルは、意識や自己意識について記述するときに使われてきた概念です。
もしかしたら、自己シミュレーションというのは、このメンタルトラベルの概念をエンジニアとして具体的に翻訳し直したものと考えるべきかもしれません。
このように自分自身についてのシミュレーションという具体的な定義を与えることにより、哲学的な議論を避けて、意識を構築することに取り組むことができるようになります。
金井:これはまさに我々が人工意識のプロジェクトを日本で始めた動機と同じ発想です!ただ、リプソン教授の場合は、自己モデルを持ちメンタルシミュレーションをするロボットをすでに完成させていますね。
リプソン教授:確かにそうですが、しかし意識というのは「ある」か「ない」かの白黒はっきりしたものではないのです。
私たちが作った機械は、自分自身のシミュレーションをすることはできますが、そこでの自分自身のイメージは極めて初歩的なものです。そこで実装されているシミュレーションは自分自身の身体がどう動くのかという運動学(キネマティクス)のみです。
金井:確かにそうでした。