ふたりで聞く
調査を始めるにあたって、私と上間の調査場面における適正と役割分担について紹介する。
まず私は、広島出身の男性の大学院生(当時)で、沖縄の暴走族、ヤンキーの男性の若者を対象とするフィールドワークをしていた。院生だったので、とにかく多くの時間を調査に割くことができた。深夜の11時から早朝までダラダラと一緒に過ごして、質問らしい質問もすることなく、雑用係としてその場に入り込むことを心掛けた(詳しくは、『沖縄で暴走族のパシリになる』を参照)。
上間は、沖縄出身の女性で、琉球大学に勤めていた。彼女は、人の話をとにかくじっくりとよく聞いた。生活史インタビューの場面では、対象者が語った断片的なエピソードを上間がつなげ、物語が立体的につらなっていく場面に何度も遭遇した。
調査対象者からも聞き取り終了後に「自分の人生を振り返ることができた」という言葉を聞かせてもらったこともある。
このように、調査の手法(あるいは能力)に大きな違いのあるふたりで、女の子たちへの調査は始まった。
調査は生活史インタビューの手法で、質問項目やテーマのすり合わせを事前に行った。しかし、話し手の話がそれたりしても、その話を聞き続ける形を優先した。
私たちが知ろうとしていることでだけは、女の子たちのことを調べたことにはならないので、積極的に彼女たちの「脱線」する話を聞くようにした。そしてそれがとてもおもしろく勉強になった。
しかし、ふたりで聞くスタイルの調査はとても難しかった。
調査中に叱られる
上間との聞き取り調査は、開店前のキャバクラ店などで行った。開店直前なので、女性たちは既に華麗なドレスで着飾っており、私たちはもちろん素面の状態で話を聞いた。
主となる聞き手を上間が、補佐的な聞き手を私が担当した。聞き取りが始まると、私は相づちをうつ役回りとなった。目の前で交わされる女性と上間のやりとりに、次々と登場する人物を時系列にそって整理しながら聞くだけで、私は手一杯だった。
私は、女の子が話し込んでいる時に、話題を変えてしまうような質問をしたり、直前に上間が聞いたことをもう一度聞くといったミスをした。上間はそのようなミスに対し、最終的には「打越君、少し黙っといてくれるかな」と、調査の席上で言われてしまった。
その後は、より体全体を使って相づちをうつようになったが、それは明らかに不自然なものだった。またDVを受けた話を聞いていた時に、話し手の女性が、そのDVによって骨折した鼻をハンカチでおさえる場面があった。
私はその仕草を勘違いし、女性が席を外した時に「上間さん、私、口臭きてますか」と聞いた。上間は「口は臭くないです、大丈夫」とだけ伝えてくれた。このようなこともあったが、なんとかふたりで聞き取りを積み重ねていった。