「ウケるー、どうする」
この日も、ふたりでキャバ嬢の優歌に聞き取りを行った。彼女は、兄からの激しい暴力を受けて育ち、つきあう彼氏からも暴力を受けていた。聞き取りの場面で、彼女は最初の妊娠した時の様子について話した。
上間「最初に生理きてないなあってのは、誰に言ったの?」
優歌「翔太君(仮名、親戚)に言った」
打越「翔太君に言ったんだ」
上間「検査薬は誰が買ってきたの?」
優歌「自分で、一緒に○○(近所の大型スーパー)行った」
上間「それで、翔太君も一緒に店に入った?」
優歌「入った。一緒に買った」
上間「やさしいね」
優歌「一人で行かんからさ」
上間「それで、買って」
優歌「昼は普通に遊んで」
打越「すぐチェックはしなかったんだ?」
優歌「やらない。怖いから。夜、(翔太君の)家帰って、トイレ貸してもらって、トイレで検査薬して、そこでわかった」
上間「それでみて、翔太君に最初に言ったわけね?」
優歌「そうそう」
上間「なんて言ったか覚えてる?」
優歌「『ウケるー、どうする』って言った。『線が出てる。見て見て見て』って言った」
10代であった彼女が、経験した出来事を、当時の動揺の様子とともに話している。しかし私はこのあとに、まったく関係のない質問をして、話題を変えてしまった。
またこの日のインタビューは、優歌も話題を次々と変えることが多く、モヤモヤした気持ちで、インタビューを終えた。
物語を紡がないということ
私たちは、毎回調査の後にファーストフード店でその日の反省会をした。聞き取り調査では、調査後に録音データを聞くことで、新たな発見や聞き取り自体を反省的に見直す重要な機会となる。私たちは、調査直後に調査の修正点、気付きを出し合い、調査手順について振り返った。
優歌の調査後も反省会の場をもった。彼女が「ウケるー、どうする?」と発したことについて、話し合った。
彼女の妊娠が発覚したのは10代の頃だった。もちろん、その責任は彼女にはない。彼女はその現実を受け入れることができなかったのだろう。
その時に出てきた言葉が「ウケるー、どうする」であり、その言葉やその時の気持ちを冷静に振り返ることは、まだできないし、彼女ひとりが引き受けることでもない。
この日の調査で話題がたびたび飛んだことも、重要なデータではないかと、上間は話した。