人工知能の創造的利用
「人工知能(AI)」という言葉が頻繁に使われ、今後ビジネスで取り入れたいと考えている人も多いと思う。しかし、実際の活用法はまだイメージしにくい。
もちろん、自動運転が日常的になってきたら、いよいよAIが社会に浸透してきたという実感も湧くだろうが、他の業界ではどういう利活用がされているのだろうか。
10月10〜11日に企画している「人工知能と社会」のシンポジウム(www.aiandsociety.org)では、AIの社会への影響について具体的な議論をするため、最前線の研究者や実際に活用している企業のキーパーソンに講演を依頼している。
理解しやすい応用例としては深層学習を利用したデータ分析などが主流かもしれないが、新しい応用の方向は「生成」である。つまり、AIが画像や音楽などを作るという、創造的な活用だ。
現在のAI研究では、「GAN(Generative Advesarial Network)」と呼ばれる生成モデルの学習方法が次々に改善され、学習したデータをもとに新しいものを生成させることができるようになってきている。
様々なビジネスにおいてAI活用が模索されているが、クリエイティブ業界、とくにアート分野では目を見張るものがある。今回のインタヴューでは、シンポジウムにお呼びしているルバ・エリオットさんに創造的AIの現状について伺った。

アート業界は不透明でわかりにくい
金井:ルバさんは変わった経歴をお持ちですが、どういう経緯で創造的AIの世界にたどり着いたのでしょうか。AIとアートという隔たりのありそうな2つの世界をつなぐようになった背景をお聞かせください。
エリオット:学生のときはイギリスのケンブリッジ大学でドイツ語とスペイン語の学科にいました。AIやアートとは全然違うものだと思うかもしれませんが、実際には大学のコースは幅が広くヴィジュアルメディアについて深く勉強しました。それで、アートに惹きつけられるようになり、またアートの社会的意義に関心を持つようになったのです。
卒業後はドイツに渡り、いくつかのスタートアップで働き、そのひとつがアートに関わるものでした。その会社では、アートコレクションを見て作品のデータを収集する研究チームのマネジメントをしていましたが、とても楽しい仕事でした。
その仕事を通して、新しいビジネスモデルやテクノロジーを、コンサバティブなアート市場にどうやったら持ち込めるのかということに関心を持つようになりました。
金井:そのスタートアップはどのようなビジネスをしていたのですか?
エリオット:ラリーズリスト(Larry's List)という名前のスタートアップで、3000点あまりの芸術作品のコレクターのデータベースを集めています。
一人ひとりのコレクターのプロフィールや過去の取引や関心などがデータベース化され、その情報をギャラリーやオークションハウスやディーラーに提供しているのです。誰もがアート作品の潜在的なバイヤーとつながりを求めていますから。
このプロジェクトはドイツのアントレプレナーであるマグナス・レシュ(Magnus Resch)が始めたのですが、彼の目的はアートの売買という不透明な世界を透明にすることでした。
アートの世界では、ある作品の正しい値段がいくらなのか、あるいは誰がその作品を持っているのかといったことがわかりにくいのです。