でも、リュウ太本人に事情を聞くと、本人も困ってたんです。息子が中学生になってから話してくれたことですが、本人の言葉をまとめると、
●40人近い人の生活音や話し言葉など、様々な音が耳に響いてきて耐えられず、イライラしてしまうことも。
●ヒドイときは目がチカチカしてきて眩しくなって視界が真っ白になってしまうこともあった。
これは、発達障害の人にはけっこうよくある困り事で、「聴覚過敏」っていうそうです(もちろん、症状には個人差があります)。つまり息子は、必要に応じて外的刺激を区別して、取り入れたり逃がしたりするワザがないのです。
本人にその技術がないわけではなく、発達障害ゆえの特性でどうしようもないんですね。
しかし(しつこいですが)、当時の私にはまだ、発達障害が原因だとわかっておらず、「息子のイライラは我慢ができないことからきている。つまり、前頭葉に問題があるんじゃないか」と思っていたので、医師の診察を受ける前にまず、児童教育相談所に相談することにしました(編集部註:前頭葉とは、脳のなかで思考や理性を司っている部分のことです)。
実は私は、教育相談所のことをよく思ってはいませんでした。学校の先生のおススメがあった手前、相談してみよっかなー……程度だったのです。
教育相談所は、育児のお説教をしてくる場所ではないか?
相談したら、育児がヘタだと怒られるんじゃないか?
こう勘違いしたまま、隔週で相談開始、となりました。
そしてついに、児童精神科へ

いざ、児童教育相談所へ。息子は私と別室で、女性の先生と自己肯定感を育てる遊びを1時間行い、私は静かな部屋で相談員の先生に話を聞いてもらうことになりましたが……。
イメージと超ちが――――う! 相談員の先生、優しくていい男じゃ――――ん!!
しかも相談に対してのアドバイスは、私が思っていたのとは真逆。怒られたり、責められることは全くなく、息子に関係する困り事を親身に聞いてもらうことができました。
ホストクラブにでも行って、目玉が飛び出るくらいお金を払わないと、イケメンになんて話を聞いてもらえない世の中です。ああ、私は何てラッキーなの!? 当時はそんな、おバカなことを思ったりもしましたが、いまになってみると、親身になってくれたのは、発達障害がある子を育てて苦しんでいる親のカウンセリングを優先してくださったのだと思います。
親が子どもをかわいがれなくなったら、発達障害がある子はもっともっと孤立してしまいますもんね。せめて私だけは息子を理解してあげなければならないのに、激怒したり鬱々としてしまっていたわけですから。
それにしても、話を聞いてもらえて本当によかったですよ~。たとえば、軍隊的な厳しい躾をしないと、この子の協調性やイライラは治らない! と思っていたのに、教育相談所の先生と話していて徐々に、
「違うな…………、逆だなコレ~?」
と考えが変わっていったんです。イケメン先生は、「こうしてみたらどうでしょう?」と、子育てについて具体的なアドバイスをくださいました。長くなるので詳しくは書きませんが、
・褒めて育てる
・毎日充分なスキンシップをとる
・一緒に遊ぶ
こういった方法を提案されて行っていると、息子の“やらかし”を少し許せるようになってくるので不思議でした。普段はリュウ太のことを、「私を困らせる厄介な子!」と見ていましたが、穏やかな時間があれば息子はイライラしないし、褒められて嬉しいときは調子のいい時間が長く続くし、本当は素直で普通の子だな~などと、気がつけたんです。
そんなこんなで、「“上手な子育て=軍隊的な厳しい躾”ではない!」と分かってきたころ、ようやくクリニックの診断を受けられる順番になったのでした。
クリニックからは前もって、子どもの様子を記録するための詳細なチェック表をもらっていたので、担任の先生に協力してもらって記入します。
そして、診察当日。
私、リュウ太、そして夫の3人でクリニックを訪れました。待合室はかなり混み合っていて、うち以外にもいろいろな年代の子が来ていたのをよく覚えています。
「どんな内診をするんだろう? 相談所はいいとこだったけど、お医者さんに怒られたりしないかな……?」
そんなモヤモヤを抱えつつ、待つこと30分。
「こちらにお入りください」
そういって案内されたのは、医療器具が全く見当たらない、診察室っぽくない部屋でした。オモチャがたくさんあって、さっそくリュウ太は散らかし放題に出して遊び始めます。クリニックの心理士の先生がその相手をしてくれました。遊び方の特徴も診察の一部だったように思います。
傍らで私と夫は、精神科医の先生とソファに座ってお話。息子が生まれたときのことからいままでの出来事、困り事などをあれこれお話しました。ときにはリュウ太もそこに呼ばれて、医師の先生から質問を受けます。
先生「リュウ太くん、学校は楽しい?」
リュウ太「ま、まあ、楽しいです」
先生「好きな勉強の科目は何ですか?」…………
こうして1時間半をかけて面談していただきました。そしてついに、先生の口からあの言葉が出てきたんです。