歴史を作る側へ
世界史において各民族は「歴史を作る側」と「歴史を作られる側」に分類される。
習演説は、中国自身が「作られる側」から「作る側」に回ることを宣言した明確な転換点と言えるだろう。
そして、その意味するところは、アメリカとイギリスが中心になって築き上げてきた自由民主主義体制を本流とする国際秩序への挑戦だということだ。
アングロサクソン的国際秩序には過去三度の挑戦があり、いずれも米英陣営側の完膚なきまでの勝利に終わっている。
言うまでもなく、ドイツの挑戦による第一次世界大戦、日独伊三国同盟による第二次世界大戦、そしてソ連社会主義陣営との東西冷戦である。
二つの世界大戦は、新興経済大国による軍事的挑戦であり、東西冷戦はイデオロギー対決だった。
サッチャー英首相はこう語っている。
「我々(英米)が協調することは世界にとって幸運だ。英語諸国民により専制政治は阻止され、自由が回復されてきた」
中国、そして一党独裁体制の死守を目指す中国共産党にとってみれば、こうした歴史認識こそが屈辱的なのだろう。
米中の陣取り合戦
それでは、新たな中国による挑戦はどのような枠組みとなるのだろうか。
筆者は、中国が自らを中心と捉える「中華思想」の挑戦と特徴づけることができるのではないかと思っている。
東西冷戦は、西洋が生んだ二つのイデオロギーの対決であり、政治・経済・軍事などすべての面でブロックとして対立した。
しかし、このグローバル化が進んだ時代に国家ブロック的対立など想定できないだろう。
現実に進んでいるのは、「社会主義的市場経済」(中国の特色ある社会主義の核心)を掲げる中国と、「リベラルな市場経済」(トランプ大統領はこれを覆そうとしているが)を引っ張ってきたアメリカとの陣取り合戦である。
それでもこの戦いが大きな意味を持つのは、誰のルールが国際社会で汎用するのかという重大な争点を秘めているからである。
例えば、アジアの多くの国々は現在、経済では中国依存を強めながら、安全保障面では価値観を共有する米国依存を強めるという股裂き状態が深刻化している。
ここから、どこへ向かうのか。
筆者は、異質の経済大国・中国の台頭により、国際政治の潮流が「価値観の共有」から「国益の共有」を優先する流れを強めるのではないかと懸念している。
そうした傾向はすでに、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)創設の際に、米国の反対にもかかわらず、イギリスを始めとする欧州各国が雪崩を打って加盟に走った経緯に見て取れる。