2017.11.08
# 企業・経営

つくばエクスプレスで「トラブル多発」大丈夫か⁉

現役職員の嘆きも
田中 圭太郎 プロフィール

いつ大事故が起きてもおかしくない

運営会社である首都圏新都市鉄道に、2015年度以降、列車のドアに体や物が挟まれている事故がどれくらい起きているのか聞いてみた。その回答は、2015年度に8件、2016年度に22件、2017年度は4月から9月までの間に13件…とAさんが把握している件数を上回っていた。

ところが、体や物が挟まれた事案はほとんど公表していないという。さらに前述の北千住駅で、バスケットボールが入った巾着袋の紐が挟まれた件では、持ち主に謝罪文を書かせたという。

確かに、乗客が駆け込み乗車をして挟まれてしまうケースもある。駆け込みをする乗客にも責任の一端はあろう。しかし、問題なのは、センサーも反応せず、ホームに駅員もいないため、ドアが再び開くことなくそのまま走り始めてしまうこと、ではないだろうか。

 

次に、駅の人員体制が他の鉄道会社に比べて手薄なのではないかと聞くと、「一日の乗降客数、乗降客の動線状態、各駅の保安設備等を踏まえて総合的に考慮して配置している」として、駅に配置されている人数を明かさなかった(広報課は「秋葉原駅と北千住駅では、乗降客数の増加などに併せて現在では一日6人以上の社員を配置している。配置数については、安全対策上の観点から回答を差し控えさせていただく」と回答)。その一方で、ホームドアなどの設備もメンテナンスも充実している(ため、問題ない)と主張した。

「当社では、開業時点から、駅構内の安全を監視するためのカメラモニターやホームドアが全駅に設置されており、同業他社で実施している深夜時間帯に無人化するための駅遠隔操作システム等と比べても、ご利用いただくお客様の安全を確保するための諸設備は整えられていると自負しております」(同広報課)

では、さらなる安全対策を講じる気はあるのかと聞くと、現在三次元センサーの導入を検討するための実証実験を実施しているという。現場の提案によって2016年10月から八潮駅の4か所ではじめ、2017年10月からは青井駅の2か所、柏たなか駅の2か所、守谷駅の1か所で実験をしている。2018年6月に結果を報告する予定だが、実際に導入するかどうかは未定だという。

また、緊急時にホームに列車を止める手段がない、というAさんの証言については、会社側は「駅事務室から指令所に通報すれば、列車を停止することができる」と反論した。しかし、利用者からの連絡を受けてすぐに列車を停止するかどうかはケースバイケースだ。駅事務室からカメラの画像を見て、現場を確認できれば、すぐに停止することもある。

一方で、現場がカメラで確認できなければ、Aさんの言う通り、「携帯無線機」をもってホームに行くこともある。この場合、タイムラグが生じる可能性は否めない。さらに、駅事務室には誰もいない場合もあるというから、やはり危険であるといえるのではないか。

会社側は人員体制について「駅員をはじめ、社員の確保は意を用いてまいります」と回答したが、Aさんによると、疲労のためか、現場の職員の仕事ぶりも散漫になっているという。

乗客が構内に残ったままシャッターを閉めてしまった「閉じ込め事案」が去年12月に北千住駅で発生。駅構内の巡回を怠ったために、ホームの扉が開いたまま列車が侵入してきたことも複数あり、トイレで自殺している人がいるのを、深夜になってから発見したこともある。巡回をする暇がなく、実際はしていなくても巡回したと帳簿にチェックするのは現場では当たり前になっているという。

Aさんはこのままではどこかで事故が起こるのではないか、と強い危機感を抱いていると繰り返す。

「巡回を怠っても、職員が勤務中にスマートフォンで遊んでいても、会社はあまり厳しく指導することもありません。職員の長時間労働や休日出勤によって、現場が支えられているので、会社も目を瞑っているのです。会社の体質が、職員のモラルの崩壊も生んでいるのではないかと思っています。

給与面に関する不満はありません。6月・12月のボーナスも、年5.5カ月支給と恵まれている。いまの職員への厚遇を維持するよりも、会社には人員を増やすことや、安全報告書の「安全方針」にも書かれている『安全性向上のための投資を適切に実施する』『安全管理体制は継続的に改善する』を実行してほしいだけです。

私は鉄道員であることに誇りを持って働いていますが、その誇りが必要ないと会社から言われているように感じてしまいます。利用客の安全のためにも、会社には設備投資と職員の勤務体制の改善に取り組んでほしいのです」

現場が感じている危機を、経営陣は共有しているのだろうか。いうまでもなく、乗客は路線の安全を前提として、日々の通勤・通学に電車を利用している。なにかが起きてからでは遅いのだ。

勤務体系についての会社側の回答 : 鉄道業においては、24時間勤務の変形労働制が基本的な勤務体系となっていますが、イベント等への応援や旅客対応、職場教育や研修、休暇取得者の代務などで、24時間勤務後、さらに同日の夕方6時まで勤務することがあるのは事実です。また、これが過重労働になるのではないかとの指摘については、24時間勤務の勤務時間は、労働基準法等の法令に基づいて、拘束時間である24時間以内に、睡眠時間5時間、休憩時間3時間30分をはさんで、実働時間15時間30分(7時間45分×2日分)で構成されています。また、24時間勤務後に夕方6時まで勤務することについては、労使協定で従業員代表者と締結している内容です。なお、24時間勤務した後に夕方6時まで勤務した翌日は公休日とすることを基本としており、社員に疲労が蓄積しないよう勤務体制を整えています。
人員についての会社の回答 : 駅の要員や業務内容の検討作業は、昨年秋ごろから着手し、駅務管理署については、適切な労務管理や職場環境の整備等が行き届くように、検証を続けてきたところですが、平成29年9月より統括副所長を宿泊勤務から日勤勤務に変更し、これに伴う要員を補充することにより体制の充実強化を図りました。また、北千住駅駅員の配置についても、同様に検証を続けてきたところですが、平成29年9月より増員しております。さらに、北千住駅における最終列車対応ならびに始業終業の同駅構内巡視支援をおこなう警備員の増員については、警備会社を含め、平成29年5月より検討をしてまいりましたが、本年11月から増員して、お客様の利便性の向上ならびに異常時の素早い対応等に努めています。

註:本記事掲載後、「首都圏新都市鉄道株式会社」より何点か指摘がありましたので、11月20日に本記事を一部修正いたしました。指摘を受けたのは、「慢性的な残業を解消するために人員を増やすことは考えていないようだ」という記述に対する認識の誤りと、駅員等の増員について等です。増員については、上記「人員についての会社の回答」をご覧ください。

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