かつては誰もがうらやむ安定した職だった銀行員。それが大リストラの危機に直面中だ。いま再びベストセラーになっている吉野源三郎の著書にかけて問いかけよう。銀行員の存在価値とは何なのか?
存在意義が揺らいでいる
メガバンクの一角、みずほ銀行を昨年退職した30代女性が言う。
「IT化やAIの発展が進む中で、『これからは人が要らない時代になる』と、上司から言われるようになりました。(金融とテクノロジーを融合させた)フィンテックが出てきて、これまでの銀行員の仕事はますます必要性が薄れていきます。
金融庁の森(信親)長官は、これからは金融業界も『事業の将来性を見抜く目利き力を活かせ』と号令をかけていますが、メガバンクでも融資の審査をしているのは、『目利き力』があるとは思えない人ばかり。
法人の財務データをパソコンに打ち込めば、自動的に貸し出せる限度額が出てきますから、それに従って融資をしているだけです。そういうレベルの銀行員は、AI時代に真っ先に淘汰されます。
私は『銀行の仕事に将来はない』と見切りをつけて、辞めました」
メガバンクの銀行員が人生の岐路に立たされている。かつて一流大学を卒業して大手行に就職した者は、「勝ち組エリート」と羨望の眼差しで見られた。
'90年代の不良債権問題を経て、都市銀行が3メガバンクに統合された後も、リストラをかいくぐった人たちは一生安泰と思ったことだろう。それが金融を取り巻く環境の激変で、メガバンクの行員であっても立場が危うくなってきた。
みずほ銀行の現役行員(40代)が嘆息する。
「かつてのように、給料日に多くの人が店舗に並ぶ時代ではなくなりました。公共料金はコンビニで払えるし、あらゆる決済がネットでできるようになった。ネットバンキングも普及しています。
こうした時代に、メガバンクがかつての規模を維持していくというのは得策ではありません。
AIやフィンテックの普及で店舗が減っていくのは、業界全体の流れ。店舗が一つなくなるということは、そこで窓口業務や事務作業に携わっていた人たちの仕事が丸々消えるということです」
仕事をしようにも、することがどんどんなくなっていく。テクノロジーの発展によって、銀行員は今後どう働くか、どう生きるか、自分たちの存在意義を問い直さざるを得ない状況になった。
実際、各メガバンクの経営陣はリストラの動きを加速させている。みずほは1万9000人、三菱UFJは9500人、三井住友は4000人分の業務削減と合わせて、店舗の統廃合も検討しているという。
これまで銀行はすべての国民にとって必要不可欠なものだった。日々のおカネの出し入れ、預けていれば多少の金利もつく、住宅などの大きな買い物の際にはおカネも貸してくれる。事業の経営者にとっては融資をしてくれるばかりか、経営の相談にも乗ってくれた。
銀行マンも「自分たちが経済を回している」と自負し、誇りをもって仕事にあたってきた。だが、時代は大きく変わった。
経営コンサルタントの小宮一慶氏が言う。
「ボディーブローのように効いているのが、日銀のマイナス金利政策です。これまで銀行は内部資金を国債で運用できていましたが、それができなくなった。それで現場の銀行マンたちは『貸し出しで儲けろ』と言われていますが、安定的に儲けられる優良な貸出先がそうあるわけではありません。
結局、銀行間での金利競争になり、0.1%を切る低利での法人融資が行われています。これでは利ザヤを確保するのは至難の業でしょう」