遅々として進まない自由貿易協定「日本が悪者」にされてしまった理由
いわく「要求レベルが高すぎる」ようやくスタート地点まで来たが…
アメリカ離脱後のTPP(環太平洋経済連携協定)について、日本、カナダ、オーストラリアなど11カ国は11月11日、当初合意に含まれていたアメリカ関連の20項目を凍結したうえで、2019年の発効を目指すことに大筋合意し、その概要と閣僚声明を発表した。
発効すれば、新協定はGDP(国内総生産)で世界の12.9%、貿易額で世界の14.9%、人口で6.9%をそれぞれ網羅するメガ貿易協定となる。限られた時間の中で、茂木敏充経済財政・再生大臣をはじめとした交渉団が、最終局面で共同議長の大役を務めただけでなく、何か月も前から精力的に各国の利害を調整して成果をあげたことを高く評価したい。
直接の経済効果だけでなく、今年7月に大筋合意して2019年の発効を目指す日本―EU間のEPA(経済連携協定)に続く成果として、他の通商協定交渉に弾みをつける効果もありそうだ。
とはいえ、世界的な保護主義の台頭と対峙していくうえで、大筋合意は通過点でしかない。もっと言えば、当初予定していたところよりかなり後方のスタート地点に、ようやく辿り着いたと考えるのが妥当だろう。
そもそもTPPは、国際的な自由貿易体制の確立のため、日米が中心となって築いた対中包囲網だ。その交渉の牽引役を果たしたのは、オバマ前米政権である。
ところが、習近平体制が「一帯一路」を掲げ、中国中心の新しい国際経済秩序を着々と築きつつあるのに対し、TPPのほうはトランプ政権が離脱したことが響いて、アメリカ抜きという“片肺飛行”状態にある。
しかも、9日のTPP閣僚会合で大筋合意した後、カナダが内容に難色を示し、首脳会合というセレモニーの開催が見送られる異例の事態が起きた。来年2月をメドにしている調印式までに、継続交渉を完了できるか不安を残した格好なのだ。
政府には、まず継続交渉を完全合意に導き、2019年の発効を揺るぎないものにする詰めが残っている。次いで11か国と連携して、トランプ政権にアメリカの復帰を促すという大きな課題に取り組まなければならない。
加えて、政府は不本意だろうが、東南アジア諸国を中心に、もう一つのメガ自由貿易協定である「RCEP(東アジア地域包括的経済連携協定)の大筋合意を潰したのは日本だ」という対日不信が高まっている現状を直視して、通商外交戦略を見直す必要も出ている。
中国主導の経済秩序の確立を目論む習体制との主導権争いは、激しさを増していくばかりだ。