2017.11.21
# 不動産

「不動産屋の仲介手数料は値引きできない」はフェイクだった

プロが教えてくれる取引の裏側
榊 淳司 プロフィール

賃貸手数料には変化の兆し

ところで、賃貸の場合、仲介業者の手数料は「月額賃料の合計1か月分まで」と決められている。実は、この1か月分の手数料は貸し手と借り手のどちらから取ってもいい。だから「合計」とされているのだ。

住宅市場は長らく売り手や貸し手が優位であった。だから、さまざまな商習慣が売り手と貸し手に有利なように形成されてきた。法的には既定がない「礼金」や「更新料」といったものも、貸し手優位だからこそ生まれた商習慣で、そこに法的な根拠はない。

賃貸借契約の締結で、仲介手数料を借り手が全額負担してきたのも、貸し手優位の商習慣の一つなのだが、それはいま崩れつつある。

街を歩いていると、明らかに賃貸仲介が中心と思われる不動産屋さんの店頭で「仲介手数料0円、礼金ナシ」といった表示を目にすることがある。あるいは「フリーレント○か月」といった表示も珍しくなくなった。

賃貸市場では、全国的に2割が空室とされる。オーナー側は借り手を見つけようと必死なのだ。だから「仲介手数料0円」の場合、賃料の約1か月分を貸し手側が負担することになる。

また「フリーレント」は、その名の通り家賃がタダになることで、「フリーレント2か月」なら、最初の2か月はオーナーに家賃が入ってこない。それでも、空室のままよりもマシと考えるから、フリーレントを出す。

 

広告料という名の手数料が横行

借り手を見つける方法はまだある。それは仲介業者に「AD(エイディー)」と呼ばれる広告料名目の手数料を支払うやり方だ。実際に広告を出すための費用ではなく、紛うことない手数料なのだが、宅建法上「手数料」としては請求できないので、広告料を名目にしているのである。ちなみに、ADは少なくて1カ月、多い場合だと3か月を超えることもある。

仲介業者は、店舗に訪れたお客にAD付の物件から案内する。ADなしの物件はいちばんあと。もちろん、同じ仕事をしても1か月分しかもらえない物件より、2か月分あるいは3か月分、ときにそれ以上の報酬がもらえる物件を優先したほうが、自社の売上が伸びるからだ。

このADという習慣はここ10年ほどで定着した。それ以前はあったにしろ、特殊なケースだった。だからあまり知られていない。

東京の湾岸エリアでは、値上がり待ちや賃貸での運用を目的にタワーマンションを購入する人が多い。賃貸運用する場合、建物の竣工前後から一斉に募集が始まる。同じ棟内で何十戸もの賃貸募集が始まるわけだ。そのとき、仲介業者は当然ながらAD付の物件を優先的に案内する。ADを付けずに入居者を募集していた住戸が、半年以上も放っておかれるケースもある。

賃貸住宅は全国的に空室が増えている。にもかかわらず、賃料はさほど下がっていない。微妙に少しずつ下がっている、という程度だ。しかし、何も変わっていないわけではない。ADという不規則な形で貸し手の負担が増え、それを仲介業者がまんまとせしめるという実態が広がっているのである。ふつうの借り手側からはちょっとわかりにくい構造変化だ。

こうしたオーナー(貸し手)側のコスト負担は、仲介業者が中抜きすべきではなく、素直に借り手側に「家賃の値引き」というかたちで移転すべきだろう。いつもながら、不動産業界は一般の消費者には見えにくい収益構造を作り出すのが巧みだ。

人口減少と高齢化を背景に、国のあり方が大きく変わろうとしています。定年までの安定雇用で住宅ローンを返済し、静かな老後生活へ、という人生は、とっくに過去のものとなりました。家を買うのか借りるのか、どこで、どんなふうに暮らすのが幸せなのか。

これからは一人ひとりが新しい時代の「住まい方」を考える時代。現代ビジネス編集部は、特設サイト『住まい方研究所』を開設しました。皆さんが住まい方を考え、選ぶための役に立つ情報を、さまざまな視点からお届けして参ります。

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