2017.12.02

「侍ジャパン」の監督はなぜ稲葉に決まったか。強化部長が明かす

驚き、いや、当然…?

この7月、2020年東京五輪で悲願の金メダルを目指す野球日本代表(侍ジャパン)監督に、ヤクルトや北海道日本ハムで活躍した稲葉篤紀が就任した。

テレビ朝日系「報道ステーション」のキャスターを務める稲葉には爽やかなイメージがあり、人気も高い。プロ通算2167安打と実績も十分だ。

また稲葉は現役時代から、代表に縁が深かった。2008年北京五輪、09年、13年のWBCにも主力として出場し、09年には「世界一」に貢献している。小久保裕紀が指揮を執った17年WBCは打撃コーチとして代表チームのベスト4進出を支えた。

代表監督を選出する侍ジャパン強化委員会は、指揮官に求める条件として1.求心力、2.短期決戦対応力、3.国際対応力、4.五輪対応力の四つをあげていた。以上の条件をメンバーの中心として策定したのが、侍ジャパン強化本部長の山中正竹である。

山中が法政大学時代(1966~69年)に積み重ねた48勝は今も東京六大学リーグの最多勝記録である。晴れて野球が正式競技になった1992年バルセロナ五輪では日本代表の監督を務め、銅メダルに導いている。

2016年、アマチュア野球発展に尽くした功績により野球殿堂入りを果たした。稲葉は山中の法大監督時代(1994年・4年時)の教え子にあたる。

小久保ジャパンの成功を踏まえて

―どういう手続きで稲葉監督が誕生したのでしょう。

山中 昨年5月にプロ・アマ合同で日本野球協議会ができました。五つの委員会の中のひとつが侍ジャパン強化委員会です。代表監督については、ここで責任を持って決め、協議会に推薦しましょう、となりました。

―代表監督を選考するにあたっては、元監督の意見も参考にされたそうですね。

山中 そのとおりです。WBCやオリンピックで代表チームの監督を務めた8人の方に会って、ご意見を伺いました。こちらからは12~13項目の質問を準備していました。

―どのような意見が出ましたか?

山中 それは様々でした。監督の経験があった方がいいという方もいれば、いや未経験者でもいいんじゃないか、という方もいた。代表監督に必要な条件については聞きましたが、最終的に誰がいいか、という話は敢えて聞かないようにしました。

―選考の四条件の中に「経験力」はありません。これを加えて五条件にしても良かったんじゃないか、という声もあります。

山中 今年のWBCで日本代表をベスト4に導いた小久保監督には監督経験がありません。惜しくも準決勝で米国に1対2で敗れはしましたが、監督の能力を問題視する声は、ほとんどありませんでした。

普通、大事な試合で負けると、必ず選手の側から不満の声が上がるものなんです。「オレはバントなんかしたことないのにさせられた」とか、「行くぞと言われていたのに(登板の機会を)すっぽかされた」といった具合に。だが今回は、そうした声が全くなかった。それは指導者と選手の間に信頼関係が醸成されていた証拠でしょう。

―つまり小久保ジャパンは成功だったと。そのチームで打撃コーチを務めた稲葉監督の評価も上がったということでしょうか?

山中 基本的には小久保ジャパンの流れを継続していくということです。経験上、野球界には大きな大会が終わるたびにスタート地点に戻ってしまうようなところがあった。またゼロに戻ってしまうわけです。

中には責任者を追及するような事もありました。でも、そんなことばかりしていたのでは、球界に進歩はない。いいものは受け継いでいく。そうしたことも選考の対象にしたのは事実です。

稲葉に関していえば、2008年北京五輪にも出場しており、国際経験は十分です。彼の学生時代を知る者として、今の彼の発言を聞いていると「本当に立派になったなァ……」という思いが強いですね。

ヤクルト時代には野村克也さん、日本ハム時代はトレイ・ヒルマン、梨田昌孝、栗山英樹と、いい指導者の下で野球をやってきた。それが人間的な成長につながったのでは、と思っています。