これまでキーワード先行だったIoT(モノのインターネット)が実用段階に入ってきた。IoTビジネスは表から見えにくい縁の下の力持ちであり、多くの人にとって今ひとつピンとこない存在といえる。しかしながらIoTが社会に与える影響は大きく、あらゆるビジネス・パーソンにとってIoTを理解しておくことは必須の課題といえる。

IoTで何が変わるのか?

IoTとはその名前が示す通り、世の中のあらゆる機器類がネット接続されることによって実現する一連のビジネスのことを指している。それだけではよく分からないので、もう少し具体的に解説してみたい。

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IoTのビジネスには、産業分野と一般消費者分野の2つのカテゴリーがある。

先行しているのは産業分野だが、世間一般の目には触れにくく、これがIoTを分かりにくくしている。だが産業分野におけるIoTの普及はかなりの急ピッチで進んでおり、数年後にはあらゆる業界のビジネス環境が大きく変貌している可能性が高い。

製造業の世界では、あらゆる機器類にセンサーや制御装置を搭載し、ネット上で統合することによって高度なサービスを実現するという取り組みが行われている。

例えばイタリア最大の鉄道会社であるトレニタリアは独シーメンスと提携し、IoTを使った新しい車両メンテナンス・システムの導入を進めている。

同社の鉄道車両の各部品にセンサーを取り付け、温度や圧力といったデータをクラウドに送信。集まったデータをAI(人工知能)のシステムが処理し、機器の状態をリアルタイムでチェックする。

どの鉄道会社もそうだが、現状では常にスペアの部品を用意し、定期的にメンテナンスを行うことで車両の安全を確保している。だがIoTによってリアルタイムのモニタリングが可能になると、どの部品がいつ壊れそうなのか、車両を運行しながら予測できるようになる。

最終的に同社では、定期メンテナンスから脱却し、随時必要なメンテナンスを行う体制に移行したいと考えている。

これが実現した場合、毎年のメンテナンス・コストを最大で10%削減できるという。また、関連する経費も削減できるので、全社的にはさらに大きなメリットが得られる可能性が高い。

国内でもIoTを活用してバスの安全運行を管理する取り組みが進められている。KDDIと小湊鉄道は、バス運転手の画像をほぼリアタイムで送信・分析するシステムを構築。危険度が高い状況になった場合には、自動的に運行管理システムに記録され安全運行に役立てられている。

IoT時代におけるビジネスは、単純に製品やサービスを提供するのではなく、顧客のオペレーションを丸ごと支援するような形態にシフトする可能性が高い。ここで紹介したのは運輸事業における導入例だが、こうしたパラダイム・シフトはあらゆる業界に波及することになる。IoTが21世紀の産業革命と言われるのはこうした理由からだ。