人口が増えている「札仙広福」
中都市が理想化されているのは、フィクションのなかだけではない。
たとえば「地方創生」のブームをつくった増田寛也らの『地方消滅』(2014)では、中都市の「ダム」的機能が重視されている。地方の人口減少を食い止める拠点として中都市は期待されているのである。
こうした目論見は的外れのものとはいえない。近年人口減少に向かう地方のなかで、広域中枢都市と呼ばれる札幌・仙台・広島・福岡(いわゆる「札仙広福」)のような都市では、例外的な人口増加がみられるからである。
たとえば関東・近畿・中京圏、さらに出生率の高い沖縄県を除けば、2010年から15年で人口がわずかでも増加した市は505市中57市、11.3%に限られている。
そのなかで福岡市、仙台市、札幌市、広島市は、それぞれ5.1%(5位)、3.5%(9位)、2.0%(17位)1.7%(19位)で人口増加の上位に位置し、また増加人数でもそれぞれの都市圏の増加分は19万8千人で全体の70.8%を占めている(国勢調査)。

こうして広域中枢都市は地方で例外的な拡大を続けているが、ただし膨張は近年急に始まったわけではない。「札仙広福」と他の地方都市の規模の差が開き始めたのは、戦後のことといわれる。
①総力戦体勢で国の統制機関が集まったことを下敷きに、②経済発展を導きコントロールする中枢的機能が集中することで、それらの都市は急速な成長を達成した。
より詳しくみれば、(a)支店の集積が「支店経済」と呼ばれるような経済環境をつくりだし、さらに、(b)地域ブロックの流通を司る卸売業が成長したことが重要になる。
戦後の高度成長は製造業を中心とした第二次産業の発展に牽引されたが、広域中枢都市はそうではなかった。
自動車産業等をもつ広島はやや例外だが、北海道や東北、九州などの地域の工場を管理し、また大量の商品をそれらの場所に流通させる拠点として、それらの都市は発達してきたのである。
結果として広域中枢都市では、第二次産業の代わりに第三次産業が膨張する。こうした傾向は現在でもみられ、近年急騰が著しい東京の特別区(83.2%)を例外とすれば、第三次産業の従業者比率で、福岡(84.3%)、札幌(84.1%)、仙台(82.7%)の少なくとも三市は、他の政令指定都市のなかで差のある上位に位置しているのである。

拡大画像表示