1983年、私は大学を卒業して、コンピュータ・メーカーに就職し、人工知能(AI)の研究開発部門に配属された。今や産業界の花形となったAIだが、当時は、基礎研究が始まったばかり。私は、人工知能の創成期を駆け抜けてきた、草分けのAIエンジニアなのである。
1991年4月、全国の原子力発電所で稼働した「世界発の日本語対応型コンピュータ」は私が作った。脚光を浴びたが、「世界初」は大袈裟。日本以外のどこの国が日本語対応型を欲しがるのかしら。単なる日本初にすぎない。とはいえ、快挙である。
「世界初と言われた日本初」から4ヵ月後、私は、一人の男の子を授かった。
鈴虫の鳴く夕暮れ時、彼をかいなに抱いていた私は、ふと「今、赤ちゃんを抱いている日本中のお母さんの中で、私が一番、脳に詳しいんじゃないだろうか」と思いついた。そこで、野望に燃えたのである。――この子を天才脳に育てよう!
1 失敗は、大らかに笑い飛ばせ
失敗は、脳にとっては最高のエクササイズだ。
2016年3月、世界最強クラスと言われる囲碁棋士に勝った人工知能は、ニューラルネットと呼ばれるシステムである。これは、人間の脳神経回路を模したシステムだ。ニューラルネットワークには、人間と同じように「学習」を施すのだが、失敗事例を学習させる必要がある。失敗を経験させなければ、完成しないのだ。失敗の与え方こそが、システムの「センスの良さ」を決める。
人間も一緒だ。失敗して痛い思いをすると、その晩、失敗に使った関連回路に電気信号が行きにくくなる。無駄な回路が消えて、とっさに正しい回路に信号が行くようになる。つまり、失敗が、センスや勘を作りだす。子どもの失敗は、喜んでやればいい。
大人についても失敗が脳にとって最高のエクササイズであることに変わりはない。ただ、せっかくの痛い思いである。失敗に使った回路は、確実に処理していかなければならない。この効果をあげるために守ってほしいことが3つある。