4 朝ごはんが、一日の質を決める

脳は、電子信号によって動いている。電気を起こすには、当然エネルギーがいる。それが、ブドウ糖だ。ブドウ糖は、血糖というかたちで血中に入り込み、脳に届けられる。

血糖は、高いことの弊害ばかりが話題になるが、脳にとっては必要不可欠な栄養素で、最低でも80ほどないと脳は正常に動けない。80を下回ると、脳はぎくしゃくとして、やる気と集中力を失い、ムカついたり、キレたりする。40を下回れば意識混濁となり、それが数時間続けば脳死に至る。本当は、低血糖の方が恐ろしいのだ。

脳は、脳の持ち主が眠っている間に、大活躍している。知識工場となって知恵やセンスを作り出し、記憶の定着を図っているのだ。

朝ごはんは、その脳に、一日を始めるためのエネルギーを与える重要な行為だ。

低血糖の脳は、てっとり早く血糖値を上げる糖質の食べ物を欲しがる。

疲れたとき、むしょうに甘いものを食べたくなることがあるでしょう?

身体が疲れたときもそうだけど、精神的な疲れでも。たとえば、仕事をいやいやこなしているとき、脳はイライラを抑えるために電気信号を使ってしまうので、エネルギーが枯渇してくる。そのため、甘いものが食べたくなるのだ。残業帰りに、コンビニを素通りできず、ついスイーツを買ってしまった経験は、多くの人にあると思う。

子どもたちは、起き抜けに低血糖状態なので、同じように甘いものに目がない。自由に選ばせれば、パンケーキにジュース、カステラにココアのような甘いものをとりたがるが、残念ながらそんな朝ごはんはNGである。

なぜか。

空腹時に、糖質を食べると、いきなり血糖値が跳ね上がり、結果、血糖値を下げるホルモン・インスリンが過剰分泌してしまう。これが2~3時間後に低血糖状態を作り出す。脳の適正血糖の下限80より下回ってしまうのだ。つまり、「いきなり糖質」は、低血糖を誘発するのである。

これでは、脳はぎくしゃくしてうまく動かない。

しかも、朝は、セロトニンというホルモンの分泌最盛時間にも当たる。セロトニンは、朝日が網膜に当たると、脳内に分泌してくる脳内神経伝達物質だ。脳全体に電気信号を行き渡らせて、爽やかな寝覚めを作ると共に、一日中意欲を下支えし、幸福感を生み出している。

セロトニンは脳を活性化させるホルモンの筆頭で、朝これが出ないと一日調子が出ず、その日の経験やセンスに変わりにくい。同じように勉強したり、スポーツしたりしているのに、セロトニンが出ない子は、成績が伸びないのである。

朝ごはんを食べない、あるいは、糖質だけ(パンだけ、ご飯だけ、甘いものだけ)の朝ごはんを食べていると、セロトニン僅少の毎日を送ることになる。

いくら塾やお稽古ごとにお金をかけても甲斐がない。子どもたちは、努力が実を結ばず、人生をあきらめていくことになる。

 

しかも、長期間にわたって、糖質朝食を食べ続けていると、血糖値の高下の激しい低血糖症になってしまうことも。不登校や引きこもりにつながる深刻な事態である。

5 朝ごはんの掟

ということで、朝ごはんは、気が抜けない(手は抜いてもいいけど)。

朝ごはんは、必ずタンパク質や繊維質(野菜や大豆製品)と一緒に糖質を摂ること。特に、たまごは、専門家によって「完全脳食」と呼ばれている食品である。脳に必要な栄養素が、ビタミンC以外すべてそろっているからだ。

朝ごはんは、たまごをはじめとするタンパク質、ビタミンCを添える野菜や果物、これに、脳の電気エネルギーを作り出す糖質(パンやご飯)の組み合わせを。

朝ごはんに気を抜かなければ、子どもの脳は、自然に発達する。思いやりがあって、キレない一日を過ごしてくれる。

黒川さんの提案する「脳に理想的な朝食」の一例。たまごかけご飯にだしスープ、などでもGOOD Photo by iStock

夫も一緒。いい朝ごはんを食べさせると、思いやりが戻ってくる。仕事の効率も上がり、機嫌がよくなる。ほんとです。私は、離婚相談を受けると、朝ごはんの見直しをアドバイスする。ほとんどの相談者から「夫の性格が良くなった」と報告を受けている。

ちなみに、たまごは、朝ごはん、塾前の軽食、寝る前の小腹にもおすすめ。コレステロールの摂りすぎは心配しなくていい。そもそも脳みその30%はコレステロールで出来ている。コレステロールは、神経回路の中で電気信号の漏れや減衰を防ぐ素材で、これが不足すると正しい信号処理が叶わなくなる。成長期や60代以上の脳で心配なのは、低コレステロールなのである。

寝る前には、消化のいいかたちで。我が家の「寝る前小腹」なだめの定番はだし汁で作るたまご汁。あらかじめコップにたまごを溶いておき、ここに、かつお節やあご(飛び魚)で取った熱いだし汁をじゅっと注ぐたまご汁。塩も入れる。

かつお節やあご、にぼしなどのだし汁には、脳内ホルモンの材料になる動物性のアミノ酸がたっぷり含まれている。脳科学者の中には、だし汁をお茶代わりに飲む人もいるくらいだ。ちなみに、脳内ホルモンの主材料であるビタミンBはナトリウム(塩の主成分)依存で血中を運ばれる。塩も摂る必要がある。