モスクワで大人気「北朝鮮展」の驚くべき中身

プーチンの狙いも見えてくる…?

ロシアで開催中の「北朝鮮展」とは?

「日本では存在すら報じられていませんが、この『北朝鮮展』は、ロシアの北朝鮮に対しての思惑、そして今後の世界情勢を考えるきっかけとなる、非常に重要な意味を持つイベントなのです。

たとえば、展示を見ると、アメリカには徹底的に排撃の意思を見せているのに対し、交戦国であるはずの韓国についての言及がほとんどない。

それどころか、『統一朝鮮』のデザイン画の前に人差し指を立て、『朝鮮は一つ』というメッセージ付きのポスターが飾られ、その下には椅子が置かれて撮影スポットにもなっています。このことは、間違いなく北朝鮮のメッセージです

日本におけるロシア研究の第一人者・中村逸郎筑波大学教授はそう語る。

北朝鮮展の「朝鮮はひとつだ」のポスターの下で記念撮影ができる

1月20日朝10時。記録的な暖冬となったロシアの首都モスクワの空は厚い雲に覆われていた。暖かいといっても気温はマイナス6度、雪がちらつく空模様だった。

モスクワの中心部(東京で言えば秋葉原くらいの位置)にある、ミュージアム・オブ・ウルトラモダンアート(Museum of Ultra-Modern Art)。

かつて国営工場だったために外観は荘厳だが、中は鉄筋が剥き出しになった現代風の美術館には、多くのジャーナリストが詰めかけていた。この日始まる、「北朝鮮展」(Made in North Korea)を取材するためだ。

 

その中の一人、写真家のドミートリー・ジューコフ氏は言う。

「ジャーナリストたちを出迎えたのは、美術館のスタッフと、『北朝鮮展』に全面的に協力したモスクワの北朝鮮大使館の職員たち。多くの展示物が、北朝鮮から運びこまれたものです。北朝鮮展の前に行われていた『スーパープーチン展』も取材しましたが、そのオープン時よりも賑わっていましたね。ジャーナリストにとっては、600円ほどの入場料が無料、というのも魅力的だったようです」

まさに朝鮮半島有事の可能性が現実味をもって囁かれるこの時期、北朝鮮の後ろ盾であるロシアで開かれた「北朝鮮展」。その内容は、どのようなものだったのか――。打ちっぱなしの建物内に広がる、プラカード、製品の数々。ジューコフ氏が撮影した展示物を御覧いただきたい。

「アメリカも絶対に無事で済まない」

主催者のアレクサーンドル・ドーンスコイ氏は、この企画展に協力した、北朝鮮側の主張をこう解説した。

「北朝鮮の人民が、自国を偉大な祖国だと思っていることを見せたかったようです。この企画展に関する打ち合わせをした際、彼らは『われわれはアメリカに勝利したのだ』と繰り返し強調していました。プラカード、切手、書物、写真などを使って、敵国が攻撃を仕掛けてくることがないほどに強国だとアピールしたいのです。

北朝鮮にとって、もう一つの誇りは偉大な指導者がおり、『いつも人民とともにいる』ことです。指導者のもとで、すべてのことがうまくいくと人民は思っているようです。

北朝鮮大使館員たちは絶対に、北朝鮮の威信を失墜させることがあってはいけないのです。例えば、私たちが、金正恩のことをふとした拍子に『独裁者』というと、彼らは激怒しました。あと、展示会には、北朝鮮の国旗を掲げるように求めてきましたね。

展示の仕方について主催者の私たちが直接関与することはなく、北朝鮮大使館が指示しました。例えば、指導者の肖像画をどのように配置するのか、という点などです」

掲出を求めれた国旗

この展示で目立つのは、派手な彩色が施された、北朝鮮のプロパガンダ広告だ。ハングルのスローガンの内容は攻撃的なものがほとんど。書かれている文字は、自国の偉大さを誇るものが多く、そして、米帝、つまりアメリカへの敵意を表したものがずらっと並んでいた。

「核戦争挑発策動を粉砕しよう!」

日本人であれば、教科書などで見た、第二次大戦中の愛国ポスターを連想する人も多いはずだ。ただ、これらのプラカードや製品を目にすることができるのは、北朝鮮でも一部のエリートだけだという。

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