2018.04.18
# 台風

地球温暖化で台風が大型化、今後も増え続ける?

スパコンで2100年まで予測したら…

台風の強風域が拡大

──シミュレーションは小玉さんが担当し、解析を山田さんが担当したのですね。解析の結果はいかがでしたか。

将来気候では、地球全体で平均した台風の発生数は22.7%減り、強い台風は6.6%増えることがわかりました。これは先行研究と一致する結果ですが、今回はさらに、同じ中心気圧の台風ならば平均風速が秒速15mを超える強風域が10.9%拡大することが新たにがわかりました。

──ついに台風の構造がどう変わるのかを明らかにしたのですね!

はい。では、なぜ台風の強風域が拡大するのか。その理由を明らかにするため、データの解析と同時進行で、台風の構造に関する論文を毎日読みあさりました。最低1日1本。そうした中で、ある論文を見つけました。それは、台風の中心に向かって伸びる積乱雲の列「レインバンド」(図4)の研究でした。雲ができるときに生じる潜熱で空気が温められて雲の下の気圧が下がることが報告されていて、それを読んだ瞬間に「これだ!」とひらめきました。

図4 レインバンド

──どういうことでしょうか。

まず台風の発生メカニズムから話します(図5)。日本では、海面水温が温かい熱帯の海上で発生し、強く発達した熱帯低気圧のことを台風と呼びます。

大ざっぱな説明となりますが、強い日差しで暖められた海面に接する空気は、暖められて気温が上昇すると同時に、海から水蒸気を供給され湿った温かい状態になります。この湿った温かい空気が上昇し雲ができます。

雲が生成される時に熱(潜熱)を出し周りの空気を温めます。温められた空気は軽い(密度が小さい)ため気圧を低下させて低気圧を形成します。

低気圧の周りでは等圧線に沿って風が(北半球では)反時計回りに吹きます(等圧線の間隔が狭くなると風は強くなります)。海面付近では摩擦の影響を受けて低気圧の中心に向かって風が流れます。海面付近では、低気圧の中心に向かって周りから湿った温かい空気が渦を巻きながら吹き込み、上昇流となって雲を生成して潜熱によってさらに大気が温められます。

このプロセスを繰り返すことにより中心の気圧はさらに下がって、回転が速くなり台風に発達していきます。


図5 台風の大ざっぱなでき方
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──そうなのですね。それで、レインバンドとどうつながるのでしょうか。

台風の発生メカニズムで触れましたが、雲が生成される時に潜熱で空気が温められます。シミュレーションでは地球温暖化によって海から供給される水蒸気が増えることで、台風の壁雲が高くなることがわかりました(図6上)。

このことにより現在気候よりも将来気候では潜熱がたくさん供給され空気が温められるので、レインバンドと同様、空気が軽くなって気圧が下がった状態になります(図6中)。

一方、台風の外の気圧は、現在気候とほとんど変わりません。低気圧の周りでは等圧線に沿って反時計回りに回転した風が吹いています。等圧線の間隔が狭い場合に風は強くなります。

台風の中心の気圧が同じ場合で現在気候と将来気候の台風の周りの等圧線を比べると、台風の中心と周りの気圧が同じであったとしても、雲が生成される領域(壁雲)付近では将来気候の方が気圧が低下しているので外側では等圧線の間隔は狭くなり、風は強くなります(内側では逆になる)。こうして台風から離れたところでも風が強くなるので強風域が拡大する、というわけです(図6下)。


図6 台風の強風域が拡大するメカニズム
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──全球を長期間高解像度でシミュレーションできるのなら、今後は台風予測の精度がより向上すると期待していいですか?

もちろんです。ただ、予報は気象庁などが行い、JAMSTECはその立場にありません。我々のチームでも気象庁の方と共同研究していますので、情報交換しながら役に立てたらと思っています。

記事提供:

※オリジナルサイトでJAMSTECの他の研究紹介記事が読めます。

 
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