ユーザーの心理を操作する実験

フェイスブックはこれまで、ユーザーの同意を得ることなく、心理操作実験を行ったことで集団訴訟にまで至った経緯がある。

社員のクレイマーらは2014年に、60万人以上のフェイスブックユーザーに対して事前に同意を得ることなく、半分のAグループにはネガティブな情報を一定期間見せ続け、もう片方のBグループにはポジティブな情報を見せ続けた結果、前者のユーザー群はよりネガティブな、後者のユーザーはよりポジティブな内容の投稿を行うようになった、という研究論文を発表した。

これは、情報提示のアルゴリズムの設計者や、そのロジックを熟知する人間が、恣意的にユーザーの心理を操作できることを端的に示した有名な事例だが、SNSがユーザーのウェルビーイングに悪影響をもたらすという研究は多い。

サンディエゴ市立大学の研究グループによる長期調査では、SNSを頻繁に利用する10代のユーザーのウェルビーイングが、そうではない比較集団と比べて有意に低いことを示した。

メディア研究者のシェリー・タークルはその著書『一緒にいてもスマホ――SNSとFTF』(青土社)のなかで、対面コミュニケーションとSNS上のコミュニケーションを比較し、後者が常に他者と接続しなければならないという強迫観念を生み出す構造について論じている。

「ネット廃人」の問題はスマートフォンが普及する以前から、特にPCのオンラインゲーム文化のなかで語られてきたことだが、SNSに24時間アクセスできるスマートフォンが出現してからは特異なケースではなくなり、より広範な人々、特に若者をめぐる問題が顕在化している。

そして、2017年10月から、フェイスブックの幹部二人がこぞって公的な場所で、同SNSが社会の分断を生み出しているという批判や、子どもたちの脳をおかしくしているという発言を行った。アメリカでは主要な報道番組などで取り上げられたり、テック系メディアで報じられたりした矢先に、アルゴリズムの改定が発表されたのだった。

ザッカーバーグという経営者の凄みは、自社サービスへのロイヤリティが下がりそうな兆候に非常に敏感に反応する点にある。

これまでInstagramやWhatsappといった競合アプリを巨額で買収してきたその嗅覚で、ユーザー・ウェルビーイングという中長期的な指標を優先する判断を下したのだとすれば、これはフェイスブック一社の問題ではなく、IT業界における競争優位性の焦点となる可能性がある。

ウェルビーイングとはなにか

さて、ここまで長々とフェイスブック社の動向を中心に、SNSにおいてユーザーのウェルビーイングが重要性されるに至った経緯を書いてきたが、肝心のウェルビーイング=心の良い状態という概念の内実について説明する必要があるだろう。

ウェルビーイングは、幸福度調査と異なり、複数の構成要素とその因子からなる考え方だ。

最も有名なポジティブ心理学では5つの要素(瞬間的なポジティブ感情、没頭、良好な人間関係、達成感、人生の意味)がウェルビーイングの因子とされ、それぞれ独立した変数として捉えられるとされる。

他にも、エドワード・デシの自己決定理論では人の自律性が最重要視されたり、バーバラ・フレデリクソンのポジティブ感情理論では、刹那的な快感が長期的な学習を動機づけるとされたり、さまざまな理論がある。