私は主にポジティブ心理学に依拠した情報技術の設計を論じる『Positive Computing』(MIT Press)という本を研究者仲間と邦訳し、『ウェルビーイングの設計論』(BNN新社)という題で昨年上梓した。この本ではポジティブ心理学以外にも、先述したものを含む様々な理論フレームワークが掲げられている。

しかし、主要なウェルビーイングの理論の多くは欧米地域で議論され、構築されてきた。たとえば心理的弾性を意味するレジリエンスの概念はホロコーストの生存者たちの研究から生まれた概念であり、ヨーロッパやアメリカの社会的歴史と切り離せない側面がある。

カリフォルニア大学のソニア・リュボマースキーらは、アングロ・サクソン系米国人とアジア系米国人を対象に比較調査を行い、欧米的なポジティブ心理学の介入方法がアジア系文化に親しいグループには、そうでないグループと比べて効果が薄いことを示した。

この違いは何かというと、ウェルビーイングの因子の多くが個人のなかで完結しているか否かという点であると私は考えている。いや、ウェルビーイングとは心の良い状態なのだから、個人の問題であるのは当たり前だろうと思われる向きもあるかもしれない。

しかし、私自身、アジア諸国や欧米圏の文化を行き来してきた経験から感じるのは、アジア、特に日本では、周囲の他者のウェルビーイングが達成されなければ自己のウェルビーイングも成立しないというような、集団的な志向性の感覚だ。

そこで私は科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)「人と情報のエコシステム」領域に採択されたプロジェクトに参加し、日本文化になじむウェルビーイング概念の内実を明らかにし、それに寄り添う情報技術の在り方を模索している。

この1年の間で、300人超の日本在住者を対象に、それぞれが考えるウェルビーイングの構成要素を3つ回答してもらうというアンケートを行い、その分析や議論を通して、暫定的に3つの因子を考えた(図)。

「自律性」(autonomy)とは、ユーザーが自分の周りの環境に対する能動性を感じられることを意味し、「思い遣り」(compassion)は、自己ののみならず、周りの他者のウェルビーイングにも寄与できるかという点を指している。

そして「受け容れ」(acceptance)とは、自律性の発動と他者のウェルビーイングが衝突せずに調和し、眼前のポジティブ、ネガティブの双方を含む状況を受け容れられる準備を表す。

たとえばポジティブ心理学や自己決定理論におけるウェルビーイングの因子と比較すると、自己の占める割合が低くなっており、その分他者や周囲の状況の比重が大きい設定となっている。

日本的ウェルビーイングの3要素

この3つの要素にまとまった背景には、研究メンバーが仏教の僧侶に「あなたにとって最近ウェルビーイングだったことはなんですか」と聞いたところ、「実の父親の死を看取ったことだ」という答えが帰ってきた、というエピソードがある。

一親等の家族の死を苦しい出来事として悲嘆するのではなく、故人の生が安らかに終息できるように努め、残された遺族たちもより良く受け容れられるように行動する。

その結果、故人を良く見送ることができた、というその話には、個人と他者という区分にとどまらず、生と死という二項対立さえも、一元的な視野で捉える日本文化の本質があるように思う。

心臓祭器

私たちの研究グループでは、「心臓ピクニック」といって、心臓の鼓動を四角い箱を通して触覚的に感じることのできるデモ技術を用いたワークショップを行っている。

これはいわば、自己を他者化し、他者を自己化するエフェクトを持っている。緊張している自分の鼓動を手のひらで感じていると、他人事のように客観視でき、心拍が落ち着いてくる。

逆に他者の心臓を握っていると、生命感が増大し、感情移入が起こる。このデバイスの派生型として、先日、恵比寿のamuを会場に開催した早稲田大学の三研究室の合同制作展「Grayscale」で、「心臓祭器」というシステムのプロトタイプを展示した。

これは、「心臓ピクニック」のシステムを応用して、故人の生前の心拍を記録しておき、死後に遺族が故人を想う時に、自身と故人の心音を重ねたものを手のひらで感じながら祈りを捧げるための道具として提示した。

さて、このようなアジア的な死生観に連なるウェルビーイング概念によって構築されるSNSやニュースメディアといった情報技術は、一体どのようなものだろうか。

私自身、これからそのかたちを模索していくつもりだが、ぜひこの記事を読んでいただいた読者の方々にもこの議論にご参加頂ければ幸いである。

以下に、あなたにとっての3つのウェルビーイングの構成要素を問うアンケートフォームを用意したので、ぜひあなたの声を届けていただきたい。私たちの研究の議論で参照させて頂き、より日本文化になじむ、ウェルビーイングとテクノロジーの関係性の構築に役立てたいと思う。

▶ アンケートフォーム:あなたにとっての3つのウェルビーイングの構成要素は?