不幸はこれだけではありません。
建物が建っていれば、その土地の固定資産税の税額は半額以下に減額される措置が取られるのですが、更地にしてしまうと、その措置が解除されます。その結果、固定資産税の金額が増額され、場合によってそれまでの最大4・2倍に跳ね上がることもあります。
もちろん建物を取り壊せば、建物の固定資産税はなくなりますが、古い家屋の場合は評価額が低いため、土地のほうの固定資産税額のほうがもともと高い、というケースが大半です。
それがさらに増額されるのですから、建物の固定資産税分を差し引いても結果的には負担が増えてしまうのです。
横山さんの場合も、200万円ものお金をかけて家屋を解体し、更地にしたことで、なんと、固定資産税の税額が年間6万円にも跳ね上がってしまいました。
年間3万円の支払いから逃れたくて売却を決意したにもかかわらず、結果的には、その2倍もの支払い義務が生じてしまったのです。
そしてこの先も、この土地が手放せない限り、毎年6万円の固定資産税の請求書が届くことになります。この絶望的な状況からなんとかして脱却できないか、今から相続放棄はできないのか、と横山さんは私の事務所に駆け込んでいらっしゃいました。
けれども残念ながら、もはや手立てはありません。
すでに相続をしてしまっている以上、今更相続放棄はできないのです。
「200万円の解体費用を回収することはもう諦めた。もう、タダでもいいから誰かに引き取ってもらいたい」
それは横山さんの偽らざる本音なのですが、その土地に興味を示す人は未だ現れていません。
固定資産税というのは、その不動産の評価額をベースに算出されます。
評価額が低ければ、固定資産税もほぼゼロに近くなることがあり、その場合、あまり財布も痛まないので、そのまま放置されるケースは多々ありました。
その結果、荒れ放題の空き家が増え、今や全国の空き家率は13%にも上ります。この状況を打破するため、平成27年の5月に完全施行されたのがいわゆる「空家対策特別措置法」です。
これは、市町村の空き家対策に法的根拠を与えるために制定されたもので、増え続ける空き家への改善(具体的には修繕や解体など)を促すための法律だと言っても良いでしょう。
放置される空き家が増え続けると、老朽化による倒壊などの危険性が高いだけでなく、衛生上の問題、景観上の問題、防犯上の問題など、様々な問題が懸念されます。
その中でも特に対策が必要な空き家は「特定空家」に指定され、強制的な対処が可能になりました。その1つが、固定資産税の特例対象からの除外です。
固定資産税の特例というのは、「建物が建っていれば、その土地の固定資産税の税額は200㎡まで1/6200㎡を超える部分については1/3に減額される」という措置のこと。
つまり、「特定空家」に指定され、この特例措置が解除されてしまうと、たとえ家屋が建ったままでも、更地と同様の税負担が強いられるというわけです。
もちろん、行政からは、助言や指導から勧告→命令→強制対処(行政代執行、略式執行)と段階的な手順が踏まれますので、指定されたからといって即解除というわけではありませんが、「勧告」の対象となった時点で特例対象から除外されます。
さらに強制対処の段階まで進めば、強制的に撤去される可能性もあります。その費用は一旦公費でまかなわれますが、結果的には所有者に請求されます。税金は高くなるわ、解体費用は負担させられるわで、まさに弱り目に祟り目ですが、その家屋の所有者(相続人)である以上、そこから逃れることはできません。
つまり、使い道がないから、あるいは売れないからと言って、これまでのように相続した不動産をそのまま放置することは、大きなリスクを伴う行為だと言わざるを得ないのです。