全容が見えない場合は限定承認がお薦め
それでは、具体的にどんな場合に限定承認は活用できるのでしょうか?もっとも一般的なのは、「リスクの回避」を目的とする場合です。あくまでも筆者の経験からですが、それは大きく以下の2つに分類されると思います。
1) 隠れた借金(負債)のおそれや不安がある場合
これは一般的な限定承認の活用法といえるでしょう。後日、負債(借金)が発覚した際に、引き継いだプラスの財産の範囲でしか支払義務を負わないようにできます。
2)プラスの財産の金額が不明瞭な場合
引き継いだプラスの財産の価値がはっきり分からない場合に、限定承認を行っておくことにより、万が一、借金(負債)の額よりプラスの財産の価値が低かった場合にも債務超過になることを防ぐことができます。
私の遭遇したケースでは、交通事故に遭い、加害者から支払われる損害賠償が確定していない間に、本人が亡くなってしまった事案があります。
この方には多額の借入があったため、事故の賠償金の金額によっては、債務超過になるおそれがありました。そこで限定承認を選択することにしたのです。
また、亡くなった方が知り合いにお金を貸している半面、本人にも多額の借入があり、もしも知り合いに対して持っている債権が不良債権であれば、結局回収できず借金の方が実質大きくなるのではないかとの不安があったために限定承認を選択したケースもあります。
このように、プラスの財産の価値がよく分からない場合にも限定承認はとても安全な手続きなのです。
相続放棄や限定承認ができない場合とは
相続放棄や限定承認は、深刻な相続負債に陥らないためのセーフティネットだと言えます。
ただし、相続に際し、以下のような手続き、行為があると、単純承認をしたものとみなされ、相続放棄も限定承認も認められなくなります。
1.亡くなった方の家や土地を売ること
2.亡くなった方の家や土地の名義を変更すること、変更に協力すること
3.亡くなった方の財産をだれがもらうか等、相続人の間で話し合いをして決定すること
4.亡くなった方の車を廃車にすること
5.亡くなった方の車を自分の名義にすること
6.亡くなった方の車を売ること
7.銀行に凍結口座の解除手続きをすること
8.亡くなった方の預金をキャッシュカードで引き出して自分の生活費などに使用すること
9.固定電話の電話加入権の名義を変更すること
10.生命保険契約で、受取人が亡くなった方である場合に受け取り手続きをすること
11.亡くなった方が返済していたお金に対して、過払い請求すること
12.医療保険を受け取ること
(これ以外にも様々なケースが考えられます)
どれもあまり深く考えずにやってしまいがちな行為ですが、そのせいで取り返しのつかない事態に陥る人は少なくありません。
どの相続を選択するかが確定するまでは、被相続人の財産にはノータッチでいるほうが安心です。
もしも、どうしても手をつけなくてはならない場合も、絶対に自己判断せず、相続に詳しい専門家からのアドバイスを仰ぐようにしましょう。