大日本印刷グループだからできること

本が作られ、販売されるサイクルについて、もう一度見てみよう。書籍のサイクルには、出版社、取次、書店といった当事者が関わっている。そのサイクルに、印刷会社がどのような役割を担っていて、それが今後どう変わっていくことが求められるのか? その問題意識が、今回のAIによる需要予測の実用化に深く関わっている。

どういうことか。今回、AIによる予測が現実化したのには、2つの要因があると言える。理由の1つはもちろん、近年のAIシステムの進化。そしてもう1つが、大日本印刷が、「出版社と書店をグループ傘下とし、『串刺し』で出版業界を見ることができるようになった」ことだ。

これまでも大日本印刷では技術開発部門で、需給予測のシステム、ロジックを開発してきた。「無駄な情報を省いていくクラスタリングに手間を取られていたが、AIを使えばその必要がなくなるなど、メリットが非常に大きい」ことから、AIを導入。

しかし、いくらAIの研究を重ねても、学習させるデータがなければ人工知能は何もできない。そして、実際に書籍の売り上げ、流通を確認できなければ、精度を高めることなどできない。

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だが、ここ7~8年で、同社は、丸善ジュンク堂や文教堂などの書店チェーンを次々とグループ会社にし、さらに、主婦の友社などの出版社と資本、業務提携を結び、出版業界の全体像をマクロからも、そして現場というミクロからも把握することができた。

「予測の元になるデータは、書店が持つPOSデータ。今のところ、弊社のグループである丸善ジュンク堂のデータになります。実際にどうAIを活用するかについては、同じくグループ会社の主婦の友社で確認することができるようになったのです」

大日本印刷がグループを拡大する中で見出したものは、翻って、出版業界の抱える課題を照射している。

縮小し続けているとはいえ、出版業界全体の売り上げ規模は1兆3000億円ほどになる。その中には、大手から地方の小さな会社まで多数の出版社があり、配本を担う取次会社があり、小売の書店がある。

しかし、その「サプライチェーン」はそれぞれつながって仕事をしているものの、意思疎通や情報の共有には至らないところが多く、いわばバラバラな状態だった。それぞれが問題意識を抱えているものの、率先して、代表して何か行動を起こすことは難しかった。起こそうにも、主導できる存在がいなかったと言えるかもしれない。

そんな状況の中、出版社と共に書籍を製造するという役割だった印刷会社が、サプライチェーンを、いわば物流の上流から下流まで串刺しで見ることで、根本的な課題を解決しよう、という流れの中生まれたのが、今回のAI予測の開発だった、と言うことができる。

「1つのたとえですが、版元さんに『人間ドック』に入ってほしいと思っているんです。どこが悪いか一緒に調べましょうと。目的はあくまで、出版社の経営課題の改善。そして、出版文化への貢献です。

もちろん、弊社にメリットがあるからこそ事業として行うわけですが、大日本印刷として書籍事業は欠かすことのできない社の主軸事業だという意識があります」