"超"情報化社会の到来
「情報化社会」という言葉が使われるようになって久しいが、改めて言及するまでもなく、私たちの周りには情報があふれている。
調査会社IDC Japanの発表によれば、全世界で年間に生成されるデジタルデータの量は、2025年までに2016年比で約10倍の163兆ギガバイトに達すると予測されている。そう言われても、これがどれほどの量かぴんとこないだろう。
アイ・オー・データ機器のウェブサイトでは、地上デジタル放送と同程度の画質でテレビを録画した場合、1テラバイトで約125時間、つまり約5日間の録画ができるとしている。
単純計算すると、163兆ギガバイト(1630億テラバイト)あれば、約23億年分の録画が可能ということになる。つまり映像データで換算した場合、2年ごとに、地球が生まれてから現在までにあたる46億年分の記録が生まれているわけだ。
しかしそれだけのデータがあっても、そこにアクセスし、利用できるようになっていなければ意味がない。あらゆる書籍が納められた巨大図書館をつくっても、それが簡単には訪れることのできない、山奥や離島にあるようなものだ。
だからこそ情報化社会を超えた「ビッグデータ社会」には、情報へのアクセスがどのように実現されているか、という点が非常に重要になる。
簡単な例を挙げよう。さきほど山奥や離島に図書館をつくるというたとえ話をしたが、逆にそうした僻地に情報が届かないという構図になってしまっているのが、医療問題である。
医師の診察を受けたり、専門家から健康維持に関するアドバイスを受けたりすれば簡単に治療・予防できる病気でも、そうした情報に接することができなければ、多くの患者を生むことになる。
その解決策となるのが「遠隔医療」だ。ICT技術を活用し、医療という「専門知識」を患者に届けたり、逆に人々から情報を吸い上げ、病気になりそうな人を事前に把握したりするわけだ。
遠隔医療は既に多くの取り組みが行われ、具体的な成果が生まれている。たとえば10年前の2008年には、KDDIとNEC、慶應義塾大学が共同で、東京都にある奥多摩町で「遠隔予防医療相談システム」の実証実験を行っている。
これは奥多摩町の集会所等に設置したコミュニケーション端末を都心の医療機関とつなぎ、血液検査や健康相談を提供するという内容で、参加者の血圧や血糖値の低下、生活習慣の改善といった効果を得ることに成功している。
大量の情報を、大量の端末で、しかも時間の遅延なくやり取りすることが可能になる5G時代には、健康維持の分野における遠隔医療と同じソリューションを、数多くの分野で提供できるようになるだろう。そこで実現されるのは、専門家と専門知識が一体となったAIが、ネットワークを通じて私たちに常に寄り添ってくれる社会だ。
貯蓄・投資ができない人のための「金融AI」
その可能性は、いくつかの分野で既に見ることができる。先ほどは医療、つまり健康維持に関する情報提供を例に挙げたが、生活する上で注意しなければならないのは、身体の「健康」だけではない。財産、つまり自分が所有するお金の「健康」も守らないと、さまざまな問題に直面することになる。
たとえば最近、日本の金融庁が「フィナンシャル・ジェロントロジー」に注目するという方針を掲げている。ジェロントロジー(老年学)とは、老年期における問題に焦点を当て、より良い老後を送るためにどうすべきかを考える学問。
そしてフィナンシャル・ジェロントロジーは「金融老年学」と訳され、特に老年期における資産管理のあり方を研究するものである。身体と財産、2つの面での健康が守られてこそ、豊かな生活を送れるというわけだ。
であれば、遠隔医療によって健康維持に関する情報を提供するのと同じ仕組みで、金融に関する情報を提供することができるだろう。この発想に非常に近い取り組みが、南アフリカで始まろうとしている。