「体調」を測る
次に、血圧、心拍数、呼吸数などの「バイタルデータ」である。
従来であれば、測定機器がある場所に行ってわざわざ測る必要があった数値が、日常生活の中で常時記録できるようになる。「日常生活の中で常時記録できる」というのが大きなポイントだ。
これらの数値の異常を発見するためには、継続して測定し、平常時と異なる動きをいち早く察知する必要がある。そのために従来は、血圧や心拍数を定期的に自宅で測定して数値をノートに記録して定期的に主治医がチェックしたり、心電図のように大掛かりな装置が必要なものは定期的に通院して測定していた。ウェアラブルであれば、そうした手間なく数値をデジタルに記録できる。
また、常時測定により、従来であれば見落としていた「測定と測定の間で発生する異常」も記録できるようになる。快適な室内で安静にして測定している時は何ともなくても、歩いている時、眠っている時、暑い場所、寒い場所で発生するバイタルデータの異常が体調の不良につながることは多い。
「着るIoT」の先駆けともいえるのが、東レとNTTが共同開発した導電性生地「hitoe(ヒトエ)」だ。毛髪の7,500分の1の細さのナノファイバーで編んだ生地に、導電性高分子をしみこませることで、洗濯しても特性が失われない高い導電性を持つ。
心臓が動く時には、拍動に伴って、心筋(心臓の筋肉)の細胞が電荷を貯めて放電する。その時に心臓付近に生じる微弱な電位差が体表面に伝わる。これをhitoeで検知することで、心拍数を測定している。
hitoeを使用したトレーニングウェアはゴールドウィンが「C3fit IN-pulse(インパルス)」として商品化している。専用トランスミッターを取り付けると、リアルタイムでスマートウォッチやスマートフォンに心拍数を転送できる。

大手建設会社の大林組では、hitoeを利用した作業員向け安全管理システム「Envital(エンバイタル)」を提供している。
hitoeによる心拍数測定、hitoeの信号を送るトランスミッターに内蔵した加速度センサー、作業場所の湿度、気温などの環境データを測る「暑さ指数ウォッチャー」のデータをリアルタイムにクラウドに収集。作業員の状態をモニターし、熱中症や転倒などの異常が発生した場合はアラートを発する。
「着る」ことで可能になる精密測定
着ることで、体表面へのセンサーの取り付けを容易にする工夫もされている。
帝人フロンティアは、「テクノセンサーER」として、10個の電極を取り付けて精密な心電計測を行う「12誘導心電」が迅速に行える、ウェアラブル電極布の販売を開始する。

急性虚血性心疾患など緊急措置を要する疾患を早急に把握するためには、12誘導心電を迅速に測定する必要がある。電極を正しい位置に取り付けるのが難しい救急現場でも、帯状の布を胸の周りに貼りつけるだけで正しく測定できるので、救命率の向上が期待できる。
テクノセンサーERは西陣織の技術を用いて作成しており、複雑な電気回路を1本の糸で織りあげている。さまざまな生体電気信号の計測に適した電気回路を「織る」ことで、心電以外の生体信号の計測も可能になりそうだ。