奨学金の返済苦から「結婚・出産・子育て」を諦める若者が急増中

「再生産不可能社会」のリアル
大内 裕和 プロフィール

しかし、これらの改善だけでは余りにも不十分である。なぜなら、若年層全体の貧困化によって、奨学金返済が延滞者を生み出すばかりでなく、社会の持続可能性自体を危機に追い込んでいるからである。

図5は、延滞者と予定通り返済している無延滞者それぞれについて、奨学金利用者の年収の推移を比較したものである。

2007年度から2012年度にかけて、延滞者の年収構造にはそれほど大きな変化がないのに対して、無延滞者においては年収の急速な悪化が進んでいることが分かる。

これは若年労働者全体の貧困化が進んだことで、予定通り返済している人の多くが厳しい経済状況の下で、奨学金返済を余儀なくされている状況を示している。

このことから、奨学金を「返せない」問題だけではなく、「返す」ことによる問題も重要となってきていることが分かる。

結婚・出産・子育てへの影響

奨学金を返済している人々の間で急速に広がっているのが、「結婚できない」「出産できない」「子育てできない」問題である。

労働者福祉中央協議会(中央労福協)は2015年、奨学金制度利用者の34歳以下の男女を対象に、奨学金返済による生活設計への影響について調査を行った。この部分の詳しい考察については、大内裕和『奨学金が日本を滅ぼす』(朝日新書)を参照してほしい。

 

奨学金返済が結婚に「影響している」と回答した人が31.6%、出産に「影響している」と回答した人が21.0%、子育てに「影響している」と回答した人が23.9%とかなりの比率に達している。

また、奨学金借入総額別に見ると、正規労働者については、奨学金の借入総額が上がれば上がるほど、結婚に「影響している」という回答比率は高まり、奨学金の借入総額が500万円以上となると、50.0%もの人が結婚に「影響している」と回答している。

すでに出生数は減り続けている。1973年に年間209万人を超えていた出生数は2016年には97万6979人と、1899年に統計をとり始めて以来初めて100万人を割り込んだ。

これは少子化どころか「再生産不可能社会」の到来とも呼べる深刻な状況である。このままでは日本社会自体が持続不可能となってしまう。

「結婚できない」「出産できない」「子育てできない」再生産不可能社会を変えていくためには、奨学金制度の抜本的な改善が必要だ。

延滞金の廃止、10年という返還猶予期限の撤廃に加えて、本人の年収に応じて奨学金返済の負担を軽減する制度を導入することが強く求められる。

それは2017年度から導入された所得連動返還型奨学金制度の改善とセットで進められるべきである。

給付型奨学金を拡充し、貸与中心ではなく給付中心の奨学金制度を実現すること、そしてすでに奨学金を利用している人々の返済負担を軽減すること、この二つが今後の奨学金制度を改善していく上での重要な課題である。

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