東京五輪前に「世界同時不況」がやってくる理由
「借金バブル」の引き金をひくのはどこかたしかに今は堅調ですが
これからの世界経済の大きな流れについて、読者のみなさんはどのようにお考えでしょうか。アメリカであれ、欧州であれ、日本であれ、圧倒的多数の経済の専門家たちは、「世界経済の拡大基調は、2018~2019年も続くだろう」という見解を示しています。
そのような専門家の見解を聞いている市井の人々のなかには、「世界経済は今後も順調に成長していくだろう」と考えている方々がけっこう多いのではないでしょうか。
たしかに、世界経済は今のところ、堅調に推移しています。国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)が2017年以降になって、世界経済の見通しについて上方修正を繰り返していますが、そんないまの世界の好景気を牽引しているのが、アメリカ人の旺盛な消費です。
アメリカの個人消費が伸びている要因は、主にふたつあると考えられます。
ひとつめの要因というのは、原油安による物価の下落にあります。あまり知られていないことですが、原油安の影響がもっとも色濃く出た2015年には、アメリカの消費者物価はわずか0.1%の上昇にとどまり、卸売物価にいたってはマイナス0.9%とデフレの状況にあったのです。
実際のところ、2015年のアメリカの家計所得の中央値は5万6516ドルと5.2%増加し、その増加率は1967年の調査開始以来で最大となっています。これは、物価下落によって実質的な所得が上がり、アメリカ国民の購買力が高まっていた証左であるといえるでしょう。
不況とデフレに因果関係はありません
ここで、経済学者も政治家もメディアも間違っているのは、不況とデフレに因果関係があると考えていることです。
アメリカがこれまでインフレであったのは、エネルギー価格の高騰が主因です。2000年以降のエネルギー価格の値上がりは、本来は低インフレでもよいはずのアメリカに悪性のインフレをもたらし、アメリカ国民の生活水準を著しく悪化させてきたのです。
経済を見るうえで大事な視点は、生産設備の供給過剰によってもたらされる製品価格の下落と、エネルギーの供給過剰によってもたらされる物価下落を、明確に分けて考えなければならないということです。
歴史を振り返ると、設備投資の供給過剰による物価下落については、企業収益の悪化を通じて、それとほぼ同時に労働者の賃金も下がっていきますし、失業者も増えていきます。その挙げ句には、消費も冷え込んでいきます。
これに対して、エネルギーの供給過剰による物価下落については、たとえ名目賃金が微増であったとしても、物価の下落が進む分には国民生活に余裕ができ、むしろ消費は拡大することが期待できるという効果があります。
2014年10月から原油価格が暴落したアメリカでは、歴史にならってまさに物価低迷に起因する消費拡大が起こっていたのです。エネルギー価格の下落による物価の低迷は、産油国以外の人々の生活にとって購買力の高まりをもたらしていたというわけです。