景気後退に陥るリスクとしては十分すぎる
それぞれのローンのなかでも、延滞率の上昇が懸念されるのが自動車ローンです。
アメリカの新車販売台数は2016年に過去最高を更新し、2017年は若干の減少をしたものの、今でも過去最高の水準で推移していることには変わりがありません。自動車ローンの残高は2015年6月末に初めて1兆ドルを突破してから、2017年12月末には1兆2210億ドルまで膨らんでいるのです。
学生ローンも延滞率の上昇が懸念されています。2017年12月末の学生ローンの残高は1兆3780億ドルにまで増加し、2008年と比べると2倍以上にも膨らんでしまっているのです。
クレジットカードローンの延滞率にも注意が必要です。原油安によってアメリカ人の実質所得が大きく伸びた2015年を起点として、消費を謳歌する国民性が戻ってきているせいか、近年の増加率は自動車ローンや学生ローンと匹敵するまでになってきているのです。
住宅ローンは、サブプライムローン問題が世界金融危機の発端となったという反省から、審査がかなり厳しくなり、2017年12月末には8兆8820億ドルと過去最高(2008年9月末の9兆2940億ドル)の水準に肉薄していますが、延滞率は1.4%程度と住宅バブル崩壊前の水準を保っています。
家計債務の7割近くを住宅ローンが占めているため、住宅ローンの延滞率が高まらなければ、金融危機が起こるということはありません。
しかしながら、家計債務に占める自動車ローン、クレジットカードローン、学生ローンの比率が上昇傾向にあるなかで、これら3つのローンの延滞率が上昇していくことになれば、景気後退に陥るリスクとしては十分すぎるといえるでしょう。
大きく様変わりする日本の近未来
なぜなら、ひとたび家計が借金に耐え切れず延滞率が上昇し始めると、消費が減少に転じることによって景気は失速するようになっていきます。
住宅バブル崩壊に伴う世界金融危機の教訓から、住宅ローンの残高はそれほど増えていないとしても、自動車ローンやクレジットカードローンなどでは、身の丈に合わない消費が何をもたらすのかという教訓がまったく生かされていなかったというわけです。
おそらくは、金利の上昇が引き金になって、家計債務の延滞率が上昇すると同時に消費が減少するというリスクが顕在化し、借金経済を回し続けることが不可能な状況になっていくでしょう。
借金で経済が回っているうちは良いのですが、返済が滞って貸し剝がしされたり、新たな融資が手控えられたりした途端に景気の減速や後退が始まることは、誰の目から見ても明らかなことです。
非常に判断が難しいのは、「アメリカでいつ景気後退が始まるのか」という時期がわからないということです。
たしかに、1年後や2年後の金利の動向が読めないために、2018年にアメリカの景気が後退するかどうかはわかりません。ただし、2018年に景気が後退しなければ、2019年にはいっそう景気が後退する確率が高まっていくということだけはいえるでしょう。
ですから私は、2020年前後までの世界経済を見通した時に、楽観的な見通しや明るい展望を決して持つことができません。
詳細については、大きく様変わりしようとしている日本の近未来を描いた『日本の国難――2020年からの賃金・雇用・企業』に譲りますが、2019~2020年はアメリカが景気後退に陥る局面を迎え、その悪影響が日本や中国、アジア、欧州にも行きわたるのではないかと予測しています。
東京オリンピックが開催される2020年以降、ただでさえ日本の人口減少が深刻化していくというのに、さらにそのうえ、アメリカ発の景気後退まで襲いかかってきたら、可処分所得の減少や失業者の増加はもちろんのこと、AIやITの分野で欧米に後れをとっている日本の大企業の淘汰・再編も免れないでしょう。
まさに、「国難」ともいえる状況に、私たちはどう立ち向かえばいいのか。最悪の事態に備えるためにも、いまは現実を直視し、冷静に先を見据えることが重要だと私は考えます。