内閣支持率が3割を切っても、自民党で「安倍降ろし」が起きない理由

強さの構造を解き明かす
古谷 経衡 プロフィール

2012年に再登板した安倍は、第一次安倍政権の轍を踏まなかった。条件となる日本の国内情勢は、06年と比べてさらに悪化していた。

人口流失と高齢化、企業撤退、財政の硬直化など三重苦・四重苦に苦しむ地方の伝統的職能は、第一次安倍から第二次安倍までの約5年間でさらに疲弊し、自民党の庇護に頼るより道が無くなっていた。安倍政権が掲げたTPP推進は農林水産業にとって打撃になるはずだったが、自民以外の選択肢が無い以上、農協票ですら自民党に回帰せざるを得なくなったのである。

小泉時代の「遺産」ともいえる「自民党支持者となった大都市部の無党派層」は、小泉の外交に象徴される清和会的な親米タカ派路線を復活し、保有する金融資産の増大につながる株高政策を展開した安倍自民を当然のごとく支持する。公明党はさらに盤石な自公選挙態勢を築いていく。

この結果、第二次安倍政権は5回の国政選挙で5戦全勝、中選挙区+全国比例という構造的にひとつの党が圧勝しづらい参議院でも勝利を収めるなど、憲政史上まれに見る破竹の大進撃を見せた。およそ60%という高い議席占有率は、昨秋の衆院選を経ても衰えていない。

2016年参議院全国比例区の自民党1位当選は、全国特定郵便局長推薦の徳重雅之。8位には全国農政連(JA傘下)から推薦を受けた藤木信也。第二次安倍政権では、小泉時代に自民党から放逐された郵政票や職能票がしれっと返り咲いている。一方で、同2位は都市部の無党派と保守層から根強い人気を誇るジャーナリストの青山繁晴である。

過去どの政権もなし得なかった、公明党・無党派・職能という3つの要素からなるトライアングルが、「三本の矢」のごとく第二次安倍政権を盤石なものにしている。

 

総裁が変わっても、政権は変われない

中曽根・小泉という過去2つの長期政権では、このトライアングルの3つのうち、いずれかひとつ、或いはふたつが欠けていた(図参照)。だが、第二次安倍はこの3つを全て持っている。これで選挙に負けろ、という方が無理な相談である。

過去の長期3政権の選挙動静を観ると、目下決定されている2019年参院選、および概ね4年以内には実行される衆議院総選挙で自民党の顔として担ぐことができる政治家は、現実に「常勝」している安倍以外の選択肢は無い——それが自民党議員たちの正直な感想であろう。

ポスト小泉「麻垣康三」の時代と現在では、長期政権の基盤そのものがさらに強化され、盤石になっているからである。 こうみると、もし秋の総裁選挙で安倍以外の人間が総裁になって自民党内での政権交代が起っても、強力な「勝利のトライアングル」を大きく逸脱することは難しいと思われる。

つまり、仮に秋の総裁選が安倍以外の誰かになっても、5年半続いた安倍政権の既定路線を大きく転換する事は難しい、といえるのである。新しい総裁は、史上初めて安倍政権が構築したトライアングルに拘泥せざるを得ず、それを踏襲せざるを得ない、という見方も出来る。

石破茂、小泉進次郎、岸田文雄、野田聖子の誰が新総裁になって組閣しても、「安倍路線」を引き継ぐ選択肢しかない。

第二次安倍の築き上げたトライアングルはあまりにも強固であるがゆえに、首班と大臣が替わっても、闇将軍ならぬ夏の日の濃い影のように、あらゆる後継内閣を数年、もしくは数十年緊縛し続けるだろう。

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