日本と海外の「金融商品格差」
――質問を続けます。
「今回の本、大変勉強になりましたが、この本に書いてある内容が金融当局を刺激し、行政が資本の海外流出防止に新たな策を打ってくる可能性もあるのではないでしょうか?」
担当編集者……微妙な質問ですね(苦笑)。海外には、日本では絶対に不可能なハイリターンが期待できる商品がいろいろある。日本の金融商品は手数料が高いのに利子が低い。つまり、日本と海外の間にはなぜ、これほどの「金融商品格差」があるんだろうか、というのが、そもそもこの本を作ろうと思ったきっかけでした。
実は、本書はその謎解きにも挑んでいるのですが、そのこと自体も当局を刺激しないかと思っておりまして……杉山さん、お答えいただける範囲でお願いします。
杉山 そうですね。たしかに難しいところです。政府からすれば、日本の大手保険会社に日本の国債を永続的に買い続けてもらうためにも、国民の資産が海外生保に大量に流れては困るわけですから、金融庁としてはこういう情報を国民にあまり知ってほしくはないかもしれませんね。
とはいえ、日本の金融業界がこのまま護送船団方式を続け、ますますガラパゴス化していく、その結果、海外との(金融商品や金融制度の)格差が広がっていくのだとすれば、資本主義の原理原則から見てあまりに歪だと思います。
個人的には、日本の金融業界も、トヨタのような自動車業界が昔からやっているように、グローバルスタンダードの中で他国と競争し、ベストプライスで戦うという当たり前のあり方に変わっていくべきだと思うんです。
それをやると、おそらく国内の生命保険会社は3つくらいに収斂されていくかもしれませんが、そうなったらそうなったで、海外の保険会社と同じような保険を売ればいいんです。もともと彼らのもつ規模とパワーとポテンシャルからすれば同じような商品は作れるはずなのですから。
なお、税に関しても言っておくと、本来、払うべき税金から逃れるという意図をもってオフショア法人を利用する、というのは当然やってはいけないことです。そして、「税金から逃れる」という事は、現在では事実上できなくなっています。
去年からCRS(Common Reporting Standard=共通報告基準)という新たな仕組みがスタートし、日本人の口座情報が100ヵ国以上の国の税当局との間で共有されるようになっています。
この制度によって、皆さんが仮にシンガポールで個人口座を作った場合、その情報はまずシンガポールの税当局に上がり、次にシンガポールの税当局からは日本の国税庁に渡ることになりました。
また最近では、プライベートバンクの業務もマイナンバーの報告などが必須になってきており、顧客の資産がどこにいくらあるかはほとんど把握されるようになりました。当局の管理、コントロールはそのレベルまで来ているということです。ですから私の本では、あくまで法で認められている税対策しか紹介していません。
――それに関連して、「日本の税当局はシンガポールの税当局との間で情報交換しているのでしょうか?」という質問もありました。
杉山 今申し上げたとおり、両国間での情報共有はすでに行われていますし、これは何もシンガポールと日本との間のことだけではなくて、ほばすべてのOECD加盟国との間で行われています。香港やスイスもそうです。どこの国に口座を持っていようと、いくら持っているかは日本の税務当局に把握されます。
たとえばカンボジアはCRSに加盟していませんので、こういった国に口座を作りたいという人もいるかもしれませんが、そうしたところで、将来的にカンボジアが加盟すれば、その際は過去5年までさかのぼって課税されます。
税に関しては結局は逃げられないので、フェアにやっていくしかないということです。