シンガポールで体感した「止めようのないフィンテックの波」の衝撃

生活を一変させる衝撃を持っている
小林 啓倫 プロフィール

フィンテックとは何か

ますは「フィンテック(FinTech)」という言葉について解説しておこう。これは「ファイナンス(金融)」と「テクノロジー」を合体させた言葉で、文字通り「テクノロジーの力で進化した金融(サービスや商品)」を意味する。

たとえばATMは、銀行窓口のサービスをテクノロジーで自動化したものであり、「フィンテック」のひとつと考えられる。銀行のサービスがインターネットによって進化したウェブバンキングも、十分範疇に含まれるだろう。

ただ現代の金融サービスは、何かしらテクノロジーの恩恵を受けているものだ。例えば営業マンと顧客とのコミュニケーションには、スマホやタブレットなどが当たり前のように使われており、そうなると金融業界全体が「フィンテック」ということになってしまう。

そこで最近「フィンテック」という言葉が使われると、それは「従来とは異なる姿や仕組みで実現された、革新的な金融サービス」という意味が含まれていることが多い。

つまりATMは、その普及が始まった1970年代であれば「フィンテック」と呼ばれたかもしれないが、現在では従来型のサービスのひとつと捉えられている。

その際にAI(人工知能)などのような、技術的に高度な仕組みが使われているかどうかという点は、実はそれほど重要視されていない。

もちろん高度な技術が使われていれば、これまでになかったサービスが実現されている可能性が高いが、必須の要素ではないのである。

 

フィンテックを難しく捉える必要はない

フィンテック企業の代表例として紹介されることの多い、トランスファーワイズ(TransferWise)を例に挙げよう。

これは海外送金を低料金で行ってくれるサービスで、英国に拠点を置いているが、既に日本をはじめとした世界各国に進出しており、毎月の送金額合計は5億英ポンド(約750億円)以上に達している。

さぞかし最先端のテクノロジーを駆使しているのだろうと思いきや、何のことはない。送金元の国と送金先の国、双方にトランスファーワイズが口座を設けておき、そこに現金をプールして、送金元の国からリクエストがあったのと同じ額(を送金先の国の通貨に換算した額)を送金先の国の口座から引き出し、指定された相手に渡すのである。

たとえば以下の図では、ドイツのBさんに100英ポンドを送りたいAさんは、トランスファーワイズに100英ポンドを預ける。トランスファーワイズはあらかじめ「1英ポンド=1.25ユーロ」のような換算レートを独自に設定しておく。

そして受け取った100英ポンドは英国の口座に預け、Bさんに渡す125ユーロは、トランスファーワイズがドイツに所有している口座から引き出す。英国のDさんに125ユーロを渡したいCさんがいたら、まったく逆のことをするだけだ。

これだとトランスファーワイズが進出している国の間でしか「送金」を実現できないが、米国とメキシコの間など、毎年多額の海外送金が発生している地域間(米国に出稼ぎに出るメキシコ人労働者が多く、彼らが祖国の家族に稼いだお金を送ろうとする)に戦略的に進出することで、トランスファーワイズは大きな支持を集めるに至っている。

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