シンガポールで体感した「止めようのないフィンテックの波」の衝撃

生活を一変させる衝撃を持っている
小林 啓倫 プロフィール

なぜフィンテックが注目されるのか

確かにトランスファーワイズは、画期的なサービスかもしれない。しかしユニークなビジネスモデルの誕生は、他の業界でも相次いでいる。

なぜ金融における革新的なサービスを、わざわざ「フィンテック」という名前を付けて注目するのだろうか。ひとつの理由は、それがもたらすインパクトの大きさにあるだろう。

テクノロジーの進歩は、あらゆるものを進化させる。電話がスマートフォンに、ブラウン管が8Kテレビに、タクシーがロボットカーに。そしてテクノロジーによって生まれた進化は、次にそれを使う私たちや、私たちがつくる社会の姿も変えていくことになる。

そうした変化の震度は、変化を起こすものが、私たちの日常にどのくらい密接に関係しているかに左右される。

人類は太陽系の果ての惑星まで調査できるほどの技術力を手に入れたが、冥王星の様子がわかったからといって、日常生活はほとんど影響がない(もちろん宇宙開発技術の進歩は、間接的な恩恵を私たちの生活にもたらしているが)。

 

しかし日常生活において欠かせない存在である、ATMの場合はどうか。ATMが普及したおかげで、現金が自由に出し入れできるようになり、常に多額の紙幣を持ち歩く必要がなくなった。

旅先で急にキャッシュが必要になり、しかもクレジットカードも受け付けてくれないという場合でも、近くのコンビニに駆け込むだけで良い。ある程度の年齢以上の方でも、もうATMが普及する前にどう現金をやり繰りしていたか、思い出せない人が多いのではないだろうか。

一方でATMの普及が、振り込め詐欺のまん延をもたらしたとの指摘がある。振り込み処理がリアルタイムで行われ、しかも人間の従業員が介在しないATMは、まさに振り込め詐欺にとって最高のパートナーと言えるだろう。

だからATMは危険だ、という意味ではなく、私たちが日常的に接するものがテクノロジーによって進化すると、それによって社会や生活のあり方も大きく変わるのである。

さらにお金と人々、お金と社会の関係というのは、国や地域によっても大きく異なる。たとえば日本は「現金社会」などと言われ、クレジットカード等を使ったカード決済の割合が低いことがよく指摘されるが、実際に三菱総合研究所の2014年の調査によれば、日本の民間消費支出におけるカード利用率は15.9パーセントだった。

しかし同調査を見ると、お隣の韓国のカード利用率は73.1パーセント、さらに欧州のイタリアとドイツはそれぞれ12.8パーセント、11.2パーセントとなっており、必ずしもアジアや欧米といった大きな括りで考えることはできないことがわかる。

現金やカードなどの各種決済手段にどのようなイメージが持たれているのかだけでなく、新しい決済手段がどこまで使えるようになっているか、治安など現金を持ち歩くリスクにかかわる要素はどうか、決済手段を提供する企業間の競争はどのくらい激しいかなど、さまざまな要因が結果に影響している。

多くの金融機関とフィンテック企業が出展した、Money20/20 Asiaの展示会場

ゆえにお金と社会のあり方は全世界で一様ではなく、その中に登場してくるフィンテック系サービスについても、国や地域によって何が支持されるのかは大きく異なる。前述のトランスファーワイズも、海外送金に強いニーズがある地域に選んで進出したからこそ、成長の足掛かりを得ることができたのである。

このようにフィンテックは、1つの地域で成功したサービスが、別の地域でも上手くいくとは限らない。ある地域では注目されなかったサービスが、別の地域で大成功を収める逆パターンもある。

個々の地域に合わせた「ローカル・フィンテック」が花開く可能性があり、それだけに各国の起業家たちが、第2・第3のGo-JekやGo-Payを狙って、頭を捻っているのだ。

ではアジア諸国では、いまどのようなローカル・フィンテックが登場し、その社会を変えようとしているのだろうか。

後編ではフィンテックによって一気にパラダイムシフトを迎えた事例を紹介する。

(後編アジアの生活を激変させた、最新フィンテックの「破壊力」こちらから)

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