読売「安倍政権批判」の裏側
この会食の後、大久保社長は古巣・読売新聞のドンである代表取締役主筆・渡辺恒雄氏のもとを訪れ、「安倍首相は、放送法4条を撤廃しようとしている。放送の信頼性を損なう暴挙であり、何としても阻止する必要がある」と訴えたという。
その結果、一貫して親安倍政権の立場を打ち出してきた読売新聞が、社説で「(放送法4条撤廃は)テレビ番組の質の低下を招き、国民の『知る権利』を阻害する懸念がある。安倍首相が目指す放送事業見直しは問題が多いと言わざるを得ない」と厳しく批判するなど、突如として政権批判を紙面で展開し始めたのである。
これに慌てた安倍首相は、3月30日にプロ野球・巨人の開幕戦を渡辺氏と一緒に観戦した際や、4月2日にメディア界の重鎮たちとともに渡辺氏と会食した時を捉えて、「私は放送法4条撤廃なんて言ったことはない。今のテレビのワイドショーなどは問題が多いし、ネットとの融合時代に入ったこの機会に放送法をイチから見直したらどうだろうか、という話をしただけです」と釈明した。
これには渡辺氏も「確かに日テレの番組を見ても酷いものがあるからな。見直しを進めるのはいいんじゃないか」などと理解を示したという。
一連の会談の後、安倍首相は周囲に「ナベツネさんには理解を得た。僕は放送法4条なんて言っていないのに、大久保さんは『安倍は4条を撤廃すると言っている』と触れ回っている。まあ、大久保さんもナベツネさんをおさえれば、もう大丈夫だ」と漏らしたという。
実際、読売新聞の論調は、1週間程度で概ね政権に親和的な路線に戻っている。
放送法4条撤廃に安倍首相が言及したかどうかについて、大久保氏と安倍首相の言い分には食い違いがある。だが、首相が「この際、放送に対する規制を定めている放送法を見直したい」と発言したことを受けて、大久保氏が放送業界の危機感を煽るため、もっとも注目を得やすい話題として「安倍は4条撤廃を考えていると言った」と言い回ったとすれば合点がいく。
事実、安倍首相は、周辺から「なぜ放送法改正を取り上げようと思ったのか」と問われた際、昨年10月の衆院選直前、サイバーエージェントとテレビ朝日の出資によるインターネットテレビ「Abema TV」に初出演した時のことに触れて「言いたいことを正確に伝えてくれて非常に良かった。ネットテレビの方がよっぽどまともだ」などと漏らし、自らの意に沿うテレビ局を作りたいとの考えを滲ませてもいる。
「4条撤廃」と口にせずとも、言葉の端々にそれは滲み出ていたのだから、「大久保氏は嘘をついている」(安倍首相側近)というのは言い過ぎだろう。
大久保氏は、安倍首相の「民放解体」に向けた本気度を感じ取り、井上弘・民放連会長(=TBS名誉会長)ら民放連の関係者にも直接、間接に反対機運を盛り上げるよう働きかけを行ったという。