7兆円という買収額は、日本国内で見れば、ソフトバンクなどが行ってきた大型M&Aを超え、過去最大。さらに、武田はシャイアーが抱える約1兆5000億円の負債も引き継ぐので、実質的な負担は8兆円を超える。途方もない額だ。
「現在、CFO(最高財務責任者)が大手金融機関を駆け回って融資のスキームを組んでいるようです。三井住友銀行をはじめ、複数の金融機関から融資を受けると見られています」(武田の幹部社員)
「小が大を飲む」ディール
これだけの額の買収となれば、当然、株価にも異変が起きる。
「2月には6000円台だった株価が、買収の発表後は4000円台まで急落しています。武田は買収資金の一部を、新株発行で賄おうとしており、そのぶん一株当たりの価値は下がる。それを見越して株価が下がっていると見られます」(岡三証券・日本株式戦略グループ長の小川佳紀氏)
だが、この株価下落の理由はそれだけではない。もっと根本的な部分で、マーケットは武田の将来に対して不安を感じている。

今回の買収は、時価総額約3兆7000億円の武田が同4兆円強のシャイアーを買う、「小が大を飲む」ディールだが、その割にはメリットが少ないのではないか――多くの業界関係者がそう首を捻っているのだ。
「今回の買収は、大きなギャンブルです」
そう語るのは、武田の元医薬事業開発部医薬調査室室長で現在は岡田DDS研究所の所長を務める岡田弘晃氏である。
「たしかにシャイアーは、2年前に血液疾患の領域を中心に事業展開する米バクスアルタを買収し、一定の需要がある血友病など希少疾患の有力な治療薬を持っています。
パイプライン(研究開発中の治療薬のラインナップ)も、実用が近い『フェーズ3』以上のものが20以上あり、ここから新薬が出てくることも期待できなくはない。
しかし、7兆円の資金を回収できるほど、いいものを持っているかというと疑問です。OBとして成功はしてほしいですが、正直に言うと『いい買い物をした』とすぐには言えない」(岡田氏)
元製薬会社勤務でサイエンスライターの佐藤健太郎氏も言う。
「シャイアーはたしかに有力な治療薬を持っていますが、その一部は、特許があと5年ほどで切れてしまいます。7兆円を回収するのに十分とは言い難い。『なるほど』と思わせられる買収ではありませんでした」
今回の買収は、一部の役員以外にはほとんど知らされておらず、一般の社員たちにとっては文字通り「寝耳に水」だったという。その社員たちは降って湧いたような買収をどう考えているのか。
40代の社員は不満気にこう語る。
「今回のM&Aは武田にとっては額が重すぎます。それに、これまで買収を重ねてきた『ツギハギ』の多いシャイアーのような会社と一緒になっても、文化の摺り合わせや効率化などがうまくいくとは思えません」