痛みがやわらぐのは「気のせい」じゃなかった!
心を許している相手に手を握ってもらうことで不安が消え、安心感を得られた経験がある人は少なくないでしょう。出産の時に手を握ってもらう、あるいは怪我や病気で痛む場所に触れてもらうことで楽になったことがある人もいるかもしれません。
体に触れる行為(タッチング)が精神的・肉体的な痛みを緩和することは経験的によく知られていますが、そうした効果が決して思い込みではなく、脳内で起こっている神経活動の結果であるとした論文が、米コロンビア大学のグループによって発表されています。
タッチングには、ストレスや不安の軽減、血圧低下などの効果があることが多くの研究によって明らかになっています。お産の時にベッドの傍らで手を握る行為や、疼痛を抱える患者にやさしく触れることで痛みを緩和する看護技術なども、タッチングの効果によるものです。今回の論文の筆頭著者であるPavel Goldstein氏も、妻の出産時に手を握ることで痛みが和らいでいたとする経験が研究のきっかけであったと語っています。

手をつなぐと、脳波も呼吸も「同期」する
実験では、1年以上付き合っている23歳から32歳の異性間カップル22組を対象に、
1:隣り合って座り手をつないでいる場合
2:隣り合って座っているが手をつないでいない場合
3:別々の部屋にいる場合
という3つの状況について、被験者の腕に痛みを与えた場合とそうでない場合とで、2人の脳の活動がどのように変化しているかを調べました。この時、痛みに対する反応の性差を考慮して、身体接触によるサポート(social support)の影響を比較的受けやすいとされる女性にのみ痛みが与えられています。
実験の結果、互いに手をつないでいる状況で痛みを与えた場合には、カップル間の脳波が同調する様子が見られたものの、他の場合では変化がなかったとのこと。さらに、女性の痛みに対して男性の共感度が高く、感情移入する度合いが高いカップルほど脳の同期レベルは高くなり、女性が主観的に感じる痛みも弱くなったと報告しています。
Goldstein氏らのグループは、同様の実験でカップル間の心拍数や呼吸のリズムが同調することをすでに確かめており、手をつなぐという単純な行為が、これまで考えられていたよりもはるかに幅広い生体リズムに影響を与えていることを今回の結果で示せたとしています。