群れのなかにカメラを置いて
毎週、堅い話ばかりになってしまっているので、今週は趣を変えてお猿の話。
インドネシアにナルト(Naruto)という名前の雌のサルがいた。ナルトは、哺乳網霊長目オナガザル科のマカク属のサルだ。
ちなみに、ニホンザルもマカク属で、英語ではJapanese macaqueというが、ナルトがなんという種類のサルかが、図鑑を調べてもどうもわからない(どなたか、写真を見てお分かりの方は、教えてください!)。
2011年、イギリスの写真家デーヴィッド・スレーター氏は、インドネシアのスラウェシ島に渡った。そこで、いろいろな動物とめぐり合ううちに、ナルトの群れを集中的に撮影し始めた。ナルトの属する種類のサルは、インドネシアで絶滅の危機に陥っているらしい。
そのうちスレーター氏は、わざと何度か群れの中にカメラを自撮りに設定して放置してみた。すると、サルたちはカメラを触ったり、シャッターを押したりしたものの、はたして写真として使えるものはなかった。ところが、例外があった。ナルトの写真だけはぶれていなかったのだ。
その後、スレーター氏は緻密な計画を練り、餌で釣り、カメラを設置し、その場を離れ、良い写真ができるのを根気強く待ったという。すると、ナルトはある日、スレーター氏の思惑通りの行動をとり、しかも名人ぶりを発揮して、ついに何枚かの芸術写真!をものにしたのだった。

スレーター氏が「猿の自撮り」として発表したナルトの超アップ写真には、強烈な魅力がある。琥珀色の目を輝かせて、にっこりと歯をむき出して笑った(?)彼女を見た途端、皆、何となく愉快な気分になり、共に微笑んでしまう。
当然、この写真はネット上で何十万回もクリックされ、世界中に拡散された。スレーター氏とナルトは一躍有名人となった。
ところが、彼のこの大成功に水を差す議論が巻き起こった。「この写真の著作権は誰にあるか?」 ナルトか、それともスレーター氏か?
スレーター氏は、当然、自分に著作権があると主張した。しかし、誰もそれを認めようとはしなかった。