いま、「これを使って教えなさい」と渡された道徳の教科書を見て、「どうやって教えたらいいのかわからない」と、途方にくれる先生も少なくないと聞きます。私はそういう先生方にはこう言いたいです。
「道徳は教科書『を』教えるのではなく、教科書『で』教えればいい」と。
そう語るのは、『みんなの学校』というドキュメンタリー番組や映画も制作された大阪の大空小学校初代校長・木村泰子さん。通常は「特別支援学級」に分けられる子どもたちを一緒に教育し、その結果、普通学級の子も特別支援級の子も学習能力を飛躍的に伸ばしている。その基本にあるのは「見えない学力を身につけさせる」という考え方。簡単に正解を言えない力だ。
では教科化された道徳を、普通の学校でどのように教え、教わり、どのように点数をつければいいのか。2012年から、大空小学校にて独自の道徳の授業を続けていた経験から、今目の前にある「道徳の教科書」を使ってどうやって道徳を学べばいいのかを聞いてみよう。
「学力」とは何か
道徳の教科化といっても、「教科化する前も授業が時々あった」と言われる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、「教科化される」ということは、使わなければならない教科書が作られ、指導要領が作られることに加え、必ず毎週行わなければならないということです。
段階評価とは異なる文章評価でしょうが、成績表にも道徳項目がつけられるようになっていくでしょう。正解のない教科に対してどのように教えるのか、どのように評価するのか。その指導要領にかかれた価値観を押し付ける形になってしまうのではないか。それが教員の方々が悩まれているところではないかと思います。
そもそも、「学力という言葉を使わずに、学力を説明してよ」と言われて、説明できますか? 私は47都道府県で講演をさせていただいています。ある勉強会で多くの学校の校長先生方に「学校で何を大切にしているか」と聞いた時、「一緒にすごせる力を育てたい」「思いやりを育てたい」という意見が多く出ました。そこで私が「では学校はそれを最優先にしているか」と問うと、だれも首を縦に振りませんでした。
学力には、「見える学力」と「見えない学力」があります。見える学力は点数で測れる学力です。正解がはっきりしているので、先生は得意です。見えない学力は判断力だったり、思いやる力だったり、チャレンジする力だったりと様々ですが、評価のつけ方は難しいかと思います。担任の価値観で左右されるのも先生が「外れ」のときは大変ですよね。
社会のニーズに適応できる学力を身に着けらせるには、10年後20年後社会に出たときに生きる力として使えるものにしなければならない。大空小では2012年の開校時に、「4つの力」を提案しました。それは、
①人を大切にする力
②自分の考えを持つ力
③自分を表現する力
④チャレンジする力 です。
そういう学びをして学力が向上するんですか? とよく聞かれます。大空小学校ではその結果、確かに全国学力調査で全国1位の県より平均正答率が高い学年もありました。
子どもたちはいつもクラスにいる(障害者)手帳をもっている子がちょっと声をあげても立ち上がっても、まったく気にしません。それくらい授業に集中している。むしろ声を上げている子は何か困っているかもしれないと、手を差し伸べることができるんです。私たちが大切にしている「学力」とはそういうことです。しかも、2020年に大学入試は大きく変わっていきますから、ますますそういう「学力」が必要になると思います。