ネットで1億円集めた「魔法の家電」が目指すもの
これで寝室ライフがぐっと豊かになる提供:popIn株式会社
「魔法の家電」に共感とお金が集まった理由
家電はまだまだ進化する。
子どものために、家族のために、私たちの暮らしを豊かにするために――。
ある日本発の家電が、製造前にネット上で9200万円以上の資金を集めた。家庭向けのIoTシーリングライト「popIn Aladdin(ポップイン アラジン)」である。開発したのは、国内最大規模のネイティブ広告プラットフォームを提供するpopIn社だ。

なぜネイティブ広告の会社が家電を? その家電はなぜ多くの共感とお金を集めたのか? 何が画期的なのだろうか?
この家電の出発点は、popIn代表取締役の程涛(テイ・トウ)さんだ。程さんには、1歳、3歳、5歳の3人の子どもがいる。
子どもも大人もスマートフォンやタブレットを利用する時代、一つの部屋にいても家族の過ごす時間はバラバラである。さらには、子どもたちがスマホで何を見ているかわからず不安に感じる親もいるのだという。

一緒にいながらも親子のコミュニケーションの機会は減りつつある――この状況をどうにかできないか、子どもの世界観を広げることができないかと、程さんは考えた。
目をつけたのは、寝室空間だ。ふつう、家で親子が一緒に過ごす機会・時間というと、リビングを思い浮かべるのではないだろうか。
「リビングはテレビの空間であり、すでに大画面での情報体験が存在しています。一方、寝室に関してはまだそうした体験が少ないと考えました」
実は、子どもを理解している自信がない親の割合が約3〜4割という調査もある。これは親子で一緒に過ごす時間が少ないことが一因にもなっているのだろう。
内閣府「子供と家族に関する国際比較調査」によれば、親子の平日の平均接触時間は「1時間くらい」が2割強ともっとも多い。接触時間が不足していると感じる親が半数近くにもなり、父親のほうが接触時間が少ないことも明らかになっている。

365日朝昼夜、自然に利用できるように
popIn Aladdinは、365日朝昼夜使えることを目指したスマートライトだ。プロジェクターであり、スピーカーであり、Androidを搭載し、多くの機能を備えている。
目覚ましを設定すれば、その時間に日本の絶景(LandSkip®)が投影される。朝の時間が、静かながらも、豊かになる。
郵便番号を登録すれば地域に合わせた風景を投影できるので、子どもたちに「これは近くのあの場所だよ」と絶景の場所を教えたり、週末のお出かけに行くきっかけになったりするかもしれない。

また、ニュースや天気もチェックできる。ニュースは、1日を気持ち良くスタートできるよう、ネガティブなものではなくポジティブなニュースを配信するようにしているとのことだ。
子どものことを考えると、事件・事故・不祥事などより、何かを知る楽しみを教えてくれる前向きな情報を受け取ることができるのは、家族としても安心なのではないだろうか。
また、「世界のふしぎ」では1分以内に答えられる約400個のコンテンツを用意(「地球は丸いのに、なぜ道路は平らなの?」など)。答えられなかったら親が解説することから会話が生まれていく――。
壁に写真や動画も投影し、アルバムのようにも利用できる。旅行や運動会など家族の大切なイベントの振り返るときにも役立つだろう。
popIn Aladdinが目指すのは、家族での時間を増やすこと、子どもの世界観を広げることだ。
程さんは「3歳〜12歳くらいまでの子どもたちに楽しんでもらえるのではないか」と言う。コンテンツを厳選して調達し、より幅広い年齢の利用を狙う。
程さんの子どもは、「うごく太陽系」「童話の朗読」「ひらがな表」に興味を持ちつつも、やはりYouTubeなどに強く惹きつけられるのだという。

直面した3つの課題
popIn Aladdinの主な機能は上記のようになる。では、どのように生まれたのか。
製品のヒントになったのは、学習ポスターだった。中国では子どもに「なぜ?」を考えさせる絵本があり、毎日接するものだった。程さんの原体験だ。
「興味があれば見る、それでいて子どもが何を見ているかわかる、そんな情報空間がいいと思いました」。大画面での体験を考え、プロジェクターをつくることにした。
まずは市販のものを組み合わせて、自分で4つのバージョンを作ってみたという。「そのときはあくまで週末の趣味程度だった」と程さんは振り返る。
すぐに、3つの決定的な課題が見つかった。給電方法、設置場所、接触頻度である。
給電方法はコンセントを差すかバッテリーを使うか、ということ。投影したい壁にコードを引くのが難しかったり邪魔だったりしたのだという。
設置場所については、テレビ・冷蔵庫・洗濯機などは、どの家でも置き場所が定まっている一方、プロジェクターの場合は置き場所がない。邪魔しない場所に置くと、接触頻度が下がってしまう問題もあり、それでは習慣化が難しくなってしまう。
理想のものがないなら、自分で作ってみよう。でも、既存の生活リズムや動作の中で自然に使えるにはどうしたら良いか。
あらゆる選択肢を考え抜いた結果、天井のライト部分にある「引掛けシーリング」にたどり着いた。これは日本にしかないのだという。
5キロのものまで吊るすことができ、給電もでき、天井に付いているから設置場所も気にしなくていい。すべての課題がストンと解消された。

このことを念頭に、試作をつくりはじめた。「親会社のバイドゥ(百度)もIoTの仕組みを持っていて、それを日本展開できないかとも言われていた」。個人的な趣味と会社のタイミングが合致。「魔法の家電」実現への推進力となった。
2016年9月に個人プロジェクトが始まり、会社の事業としては2017年7月に動き出した。週末の趣味としてやっていた助走期間があったことで、コンセプトは検証済み。目的も明確だったので、一気にコンセプト機づくりへ。
同年のCEATEC JAPANという国内最大級のIoTイベントへの出展も実現。しかし、理想のプロダクトからはまだ遠かったという。
クラウドファンディング成功と製造の苦労
popIn Aladdinは、2017年秋から冬にかけて2度のクラウドファンディングで9200万円以上集めることに成功した。
資金調達はもちろん、クラウドファンディングを通じて、PR効果と市場性を検証。より確信と可能性を実感することになった。
「欧米に追いつくためには、もう一桁ほしかった。大きなスケールを目指したい」と程さんは正直に語る。「今はスマートスピーカーが話題ですが、あのように自然なかたちで、朝昼夜の生活に浸透させていきたい」。
なぜここまで共感が広がったのだろうか。多くの支援者は、プロダクトデザインに惹きつけられた人と、程さんと同様に家族コミュニケーションについて解決したい人だという。
支援者の70%が30〜40代男性(女性は10%)。4月には支援者限定のイベントを開催し、そのときは8割が家族連れだったことで、「届けたい層に届き始めている実感がありました」。

クラウドファンディング後、量産デザインの実現に向かった。程さんは日本での製造にこだわった。引掛けシーリングは日本独自の規格ということもある。最終的にVAIOが担当しているのだが……。
「交渉に行ったところ、3回くらい断られました。VAIOさんはプロジェクターの製造経験がありませんでした。しかもゼロから作るとなると、数年かかるところを半年で作ってほしいと無理にお願いしました」。その後、程さんの熱い思いが通じ、最終組み立てと出荷前検査を受けてもらえることに決まった。
チームは東京、北京、深センなど5ヵ所に点在、40名ほどのメンバーがいる。「製品自体よりは、作るプロセスで苦労があり、工夫が必要でした」。時間をかけて情報やコンセプトの共有に努めた。子どもを持つメンバーを中心に共感は自然と広がっていった。
冒頭に記したように、もともと起業家としてネイティブ広告プラットフォームを提供していた程さん。ソフトウェアからハードウェアへ、ゼロからものをつくることの大変さを痛感した。コンセプト機の時点では、サイズや素材感の面で不満もあった。子どもを持つpopIn社員を中心に操作とコンテンツの接触頻度を検証していった。
理想との距離に苦しみ続けた末に、量産デザインが完成した。こうした経緯があったからこそ、また、自身の当初からの思いが結実したからこそ、感動もひとしおだったという。

「魔法の家電」のこれから
popIn社はこの夏で設立10年を迎える。目指してきたのは、「ユーザーの意欲を解析し、最適なインターフェイスを提供することにより、情報のインテリジェント化し、インターネットの価値向上に寄与」することだ。
これまでネイティブ広告プラットフォーム事業を通じて、メディア領域においては大いにその実現に向かっていた。今、そこからさらに踏み込んで、リアルの、しかも家族の空間でそうした目標に向かいはじめている、と言うこともできるだろう。
ゴールデンウィークには二子玉川にある蔦屋家電で、実際の空間を体験できるモデルルームを出展。「これまで世の中になかった製品のため20〜30分の接客、説明時間がかかります。それでも、最後まで話を聞いたお客さんには感動していただいています」。popIn Aladdinは着実に広がりを見せている。

では、これからどこへ向かうのか。
「まずは製品を広めていくこと。そして、次のバージョンもつくりたい。最終的には、パッと見て、シーリングライトだと思ってもらえることが到達点です」
popIn Aladdinは、5月31日まで先行予約を受け付けており、定価の半額44800円で手に入れることができる(発送は9月予定)。「iPhoneのようにどの家庭にも浸透するプロダクトを」と程さんは意気込む。
子どもを持つ親が自分の家族のために。きょうだいの子どもの出産や入学祝いに。おじいちゃんおばあちゃんから子どもたちへ。家族や親族、近い友人から、popIn Aladdinはあたたかな広がりを見せていくのだろう。
この新しい家電がこれから家族の情報空間を豊かにしてくれる。家族の関係や一緒に過ごす時間の大切さを再実感させてくれる。まるで、魔法のように――。
(取材・文/佐藤慶一、写真・三浦咲恵)