紀州のドンファンが死の直前、親しい人に遺した「最期の電話」

急逝、一体なぜ…
吉田 隆

お手伝いさんの言葉

25日の昼前、田辺市内のドンファン宅に到着する。ドンファンの亡骸は和歌山市内の病院で死因究明のために解剖に出されているという。亡骸には手を合わせられない。さっちゃん、Kさん、そしてマコやんを交えて、何があったのか事情を聴く。

「私はいつものように午後4時には父親のお見舞いをして7時半ごろに戻ってきた。それから(ドンファンと)2人で一階のリビングでテレビを見ていたのよ」

Kさんはドンファンと30年来の付き合い。田辺の出身だが都内で暮らし、ドンファンの仕事を手伝っていた過去もある。ドンファンの会社にマルサが入った際、Kさんの自宅マンションにも捜査員が入ったほど、関係が深い。

田辺で暮らすKさんの高齢の父親が入院中のため、彼女は昨年秋ごろからドンファン宅に泊まり込んで月に10日間ほどお手伝いをしていた。

 

Kさんが続ける。

「8時過ぎにはリビングの上の社長の寝室で足音が聴こえたので『まだ起きているね』とさっちゃんと言葉を交わしたんです」

普段、ドンファンは午前2時前には起床する。ドンファンの自宅は一階にリビングとゲスト用の宿泊部屋、ジャグジー付きの風呂とトイレがあり、2階は20畳ほどのワンルームに大きなダブルベッドとソファー。こちらにも専用の風呂とサウナがある。

ドンファンは朝3時すぎには自宅から徒歩3分のところにある会社に出社し、会社前に設置された10数台の自動販売機の売り上げをチェックするのが日課だ。そして経理書類に目を通す。5時には早番の社員が出社するので指示を出し、8時過ぎには社員を連れて市内の喫茶店などに朝食を摂りに行く。

10時ごろにはもう自宅に戻り、お昼にはしゃぶしゃぶやうどんを食べながらビール瓶1本半ほど空ける。午後は2階の寝室に籠りっぱなしで軽い夕食を摂ることもあるが、階下に降りてくることはない。

当たり前だが、自宅そのものには大きな変化はない。ただ、ドンファンがそこにいない。もうひとつ、目には見えないがこの家には大きな変化が起きていた。ドンファンの愛犬・イブちゃんの死だ。

愛犬イブの死

話は5月6日にさかのぼる。午前4時、ドンファンから東京のボクのところに電話があった。

「おはようございます。あのね、イブちゃん死んじゃった……」

声が沈んでいる。ミニチュアダックスフントのイブちゃんは16歳の雌犬。バツ2のドンファンと一緒に暮らしていた娘あるいは妻のような存在だった。そのイブちゃんの様子が前日の夜から様子がおかしいので、午前2時にKさんが運転する車で大阪市内の大学付属の獣医病院へ運んだ。さっちゃんも病院には同行した。だが、祈りは届かずイブちゃんは亡くなった。

イブちゃんは心の支えだった(吉田氏撮影)

電話でそのことを悲しそうに告げるドンファン。

「老衰ですかね。がっかりしていると思いますが気を確かにね……」

ボクがそういうと、ドンファンはこう返す。

「明日は東京の病院で僕の体の検査があるから、東京に行きます。帰りに一緒に田辺に行ってくれませんか?イブちゃんの葬儀もしますから」

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